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実際に百合と直樹とはグループの中でも元々気が合う方だった。
食べ物の好みも映画の趣味も割合似ているが、何より一番似ているのは物の考え方である。
世間的に言えば“価値観”とでも言うのだろうが、あいにくそれほどまでに大層な言葉を使うのは少し違う気がする。
ただ言葉の選び方が似ていることは、二人にとっては重要なポイントのようであった。
「塩うまい?」
「うん!醤油は?」
「うまい。ちょっと交換しよ。」
「言うと思った。いいよ。」
こんな風に食事を交換することもしょっちゅうで、むしろ交換することを前提にメニューを選んでいると言っても過言ではない。
ごく当たり前に交換できるようになったのはいつからだっけ……などと思うと、決まってあの日が思い出される。
それは初めて二人だけでご飯を食べに行ったとき――。
それまで大人数が当たり前であったので百合の方は若干緊張していたのだが、どうやら直樹は微塵もそのようなことはなかったようで。
第一回目から「ちょっと交換しよ」と言われ、百合は面を喰らった。
というのも、食事を交換すること自体に抵抗があったわけではなく、こんなに早くに直樹が心を開いていることに驚いたのだ。
そしてそんな一件も、二人の距離を近くする一つの要素であったと言えるだろう。
* * *
「ほら、持ったるよ。女の人って荷物多いのな。」
晩御飯を食べたあとに、カフェに移動。
そこで何のまとまりもない話をダラダラとしていたら、あっという間に23時を過ぎた。
サクは大学の近くで一人暮らしをしているので時間を気にする必要はないが、百合は自宅から通っているためそうはいかない。
今日もそろそろお開きかという頃、百合の手持ちの中からファイルケースを持ち上げたサクがそう言って呆れたような顔をした。
「一応減らそうと努力はしてるんだけど……。でも今日は明日出すレポートの資料があるし。」
「……え!?レポート!?」
「そう。試験の代わりなんだけどねー、これがまた厄介でさぁ……」
「ちょ……、早く言えよ!そういうことは!」
「私を見くびらないでくださいー。あとは参考資料まとめて、文章正すだけですー。」
明日提出のレポートと聞いて急に真剣な声になったサクは、百合の返答に一瞬ぽかんとした反応を見せたが、すぐさま表情を崩して「見くびってすみません」と笑った。
おそらく、自分とこんなに遅くまで話し続けたせいでレポートが完成しなかったらどうしようと、焦ったのだろう。
こんな風にばかみたいに真面目なところも、サクと居て心地よいと百合が思う理由の一つだった。
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