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「送ってくれてありがと。あと荷物も。」
「いやいや。宮本様が途中で襲われたりしたら大変ですので。」
「襲われるなんて微塵も思ってないくせに。」
「ばれたか。」
百合の自宅から大学まで行くには、幹線とローカル線の二つの路線を使わねばならない。
つまり乗り換えがあるのだが、直樹はいつも一緒にローカル線に乗って、本線との乗り換えの駅周辺でご飯を食べるところを探してくれる。
もちろん直樹の家は大学から徒歩15分の位置であるから、わざわざ電車に乗る必要はない。
百合は定期があるので運賃は発生しないが、直樹はその度に往復の切符を買うことになるのだ。
それが申し訳ないので、百合は大学の周辺でご飯を食べようと毎回言うのだが、直樹曰く「幹線の駅まで出た方がおいしいお店がいっぱいある」とのこと。
本人はそう言うけれど、これから更に電車に乗って帰る百合を気遣ってくれているのは見え見えである。
しかし百合がそれを言えば、「自惚れるな」なんて茶化されて話は終わってしまう。
そして結局、乗り換えの駅の改札まで送ってもらうのが、いつの間にか当たり前のようになっていた。
駅で直樹と別れるとちょうど良いタイミングで電車が到着したので、空いている席に腰を下ろす。
そしてなんとは無しに携帯を開けば、ディスプレイには一通の新着メールの通知。
そのメールを開けば、送り主はやはりサクだった。
「レポート頑張れ!」
たった8文字。
一列にも満たない文字数なのに、何故かとても嬉しくて頬が緩む。
百合はすぐに返事を打つと、送信ボタンを押して目を閉じた。
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