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居酒屋で出会って2週間後。
茉奈の彼氏の楓汰君が加わり、予定が合わなかった優佑君と鷹緒君を除いた6人で、茉奈が提案したボーリングに行った。
穏やかな笑顔で人当たりのいい楓汰君は、すぐにみんなと馴染んで、私達と居る時はしっかり者の茉奈も、楓汰君の隣にいると纏う空気がいつもより柔らかくなり、可愛い彼女の顔になる。
茉奈の可愛い笑顔を見ると、やっぱり恋っていいなぁ、っと羨ましくなった。
この日、一番の主役は律樹君で、あんなに可愛くて、スマートなのに、ボーリングはビックリするくらい下手で、誰よりもガーターを出しまくり、誰よりも低い点数なのに、恥ずかしがるところか、本気で悔しがった。そして、気を使って1ゲームで終わろうと提案した楓汰君に、食い気味に2ゲーム目をお願いしたことに、みんなで驚いた。
クールだと思っていただけに、ゲームに熱くなる姿を見て、年相応の男の子らしいさに、一気に親しみを覚えた。
1ゲーム目は、律樹君が下手な事をイジるのは忍びなく思っていたけど、2ゲーム目からは最初から、ぎこちない投げ方をする律樹君に、みんなで遠慮なくツッコんだ。
「俺、球技全般苦手なんだよね。ずっと陸上の中長距離やってて、走るのは得意なんだけど。」
言い訳らしい言い訳を、可愛い顔で言われて、お姉さんの私は「うんうん。」と頷いて、頭を撫でた。
「何だよ、これ。慰められてるの?俺?」
「大丈夫だよ。出来ない事を出来ないって認めるのも、大きな成長だよ。」
「うるせぇ。俺の次に成績悪い阿子ちゃんに言われたくないわ。」
「でも、律樹君ほど立派な成績じゃ無いよ。」
運動音痴な私は、ボーリングも漏れなく下手で、今日も私が一番下手だと思っていただけに、律樹君が可愛く見えた。
「阿子、律樹君と仲いいね。」
紫苑が私達のやり取りを見て、聖母のように微笑んでいた。
「出来の悪い子ほど可愛く見える。ってホントなんだなっと思ってね。」
「出来ないのは事実だけど、阿子ちゃんに言われると何かムカつくわぁ。」
不満そうに口を尖らせる顔も、私だけに生意気な事を言ってくるところも、今日は全部許せそう。
これが、上に立つ者の余裕なのかもしれない。と、たかがボーリングの成績がホンの少し良かっただけの自分に酔いながら思った。
「何かこのままだと、俺がオチ担当になりそうで嫌だ。」
律樹君は可愛い顔を歪めながら、感情むき出しの言葉を吐いた。
「じゃ、次は律樹君の名誉挽回出来る事にする?」
紫苑が優しく提案する。
「じゃぁさ、次は、みんなのイイところ探せる、スポーツ・アミューズメント施設に行こうよ。」
楓汰君が爽やかな笑顔で提案すると、みんな乗り気で頷いた。
楓汰君提案のスポーツ・アミューズメント施設に、全員揃って集まれたのは、ジメジメした梅雨が、ジリジリした夏に変った頃だった。
そこで初めて鷹緒君の彼女の理央ちゃんに会った。
控えめで、笑顔が優しくて鷹緒君のことが大好きな理央ちゃんは、とっても可愛いくて、理央ちゃん対して無口だけど優しくエスコートしている鷹緒君は、頼もしい彼氏で、少し見直した。
康太君の年上の彼女も誘ってみたけど、大学生ばかりのノリはキツイと言って断られたらしい。
紫苑の彼氏は、遠距離で二人きりのデートも中々できないのを知っていたから、無理に誘わなかった。
じゃあ、大学生のノリ、全開で遊びますか!
ってことで、優佑、律樹、紫苑、康太、私のシングル組と、茉奈、楓汰、鷹緒、理央のカップル組で何となく別れると、シングル組はまず最初にバスケをした。
律樹君は期待を裏切らないポンコツドリブルを披露し、全員の笑いを誘うと、康太は派手なアクションで華麗にシュートを決める。
紫苑はおっとりしてそうな見かけによらず、運動神経が良く、軽快なドリブルとシュートを決めて、みんなを驚かせていた。
運動とは無縁そうな優佑君は、指示やパスを出しながら誰よりも様になったドリブルをし、派手ではないけどきっちりとゴールを決めて運動神経の良さをひっそりと示した。
私は、宣言通りの運動音痴で、律樹君の次にみんなの笑いを取っていた。
運動音痴でも、私はとっても楽しいし、律樹君も無邪気な笑顔でボールを追いかけていた。
そろそろ律樹君のカッコいい姿を見せてもらおうかと、球技以外のアトラクションを探していると、テニスの前を通りかかった。
やけに上手い人がいて、自然と足が止まって見ていると「鷹緒だ。」と康太君が教えてくれた。
何でもテニスサークルに入っていて、そこそこ上手いらしい。そして、康太君も別のテニスサークルに入っていて、そこそこ上手いらしい。
ということで、勝手に対決モードになった康太君と鷹緒君の対戦が始まった。
本物のコートとは違うらしく、最初は苦戦していた康太君も、何球か打つうちに感覚を掴んだようで、二人の対決は、鷹緒君が優勢だけど、それなりに見応えのある物だった。
ルールやカウントの仕方が分からない私達に、優佑君が分かりやすく教えてくれていた。しばらく優佑君の解説を聞きながら観戦していると、珍しくロングラリーになり、私は二人のプレーに夢中になってた。
鷹緒君がネットギリギリに落としたボールに康太君が追いつけず、鷹緒君にポイントが入って、鷹緒君のサーブがラインギリギリだったのを、康太君が「入って無い。」と主張し、プレーが一時中断された。
私は隣の優佑君にどうだったか聞こうと顔を横に向けた。
「ねぇ、今の入ってたよね?」
でもそこに、優佑君はいなかった。
辺りをキョロキョロと見渡すと、遠くにシルバーヘアーの頭が見えた。
鷹緒君の次に背の高い優佑君は、人ごみに紛れても、高い背と髪の毛の色ですぐに見つけられた。
私は目立つ髪の毛を目印に、人ごみの中を進んだ。
すると、急に消えたと思ったら、小さな男の子を肩車して再び現れた。
何?誰の子?
私は驚いて、歩を速めて人ごみを進んだ。
「優佑君、どうしたの?その子。」
驚かせて子供を落とさないようにと、私なりに気を使って、前に回り込んでから声を掛けた。
人ごみに紛れて気が付かなかったけど、優佑君の隣に紫苑もいて、何故か紫苑が答えた。
「迷子。一周回って両親が見つからなかったら、インフォメーションに連れて行こと思って、回ってるところ。」
「阿子ちゃんも一緒に探してくれる?」
優佑君が優しい声で、私にも参加を呼び掛ける。
「もちろん。おねぇちゃんも一緒に探すからね。」
涙の痕が分かる小さな男の子は、優佑の肩の上で小さく頷いた。
「名前は?」
「ハヤト君だって。」
紫苑が遥か上にある、小さな男の子を見上げて微笑んだ。
3人でしばらく探していると、「ママ」とハヤト君が声を上げた。
みんなで、ハヤト君が指を指す方を見ると、ハヤト君に何となく似ている女の人が駆け寄って来た。
肩車からハヤト君を降ろして、お母さんに引き渡す時。何度も頭を下げてお礼を言っているお母さんに、少し吊り上がっている目を細めて、優しく笑いながら、「見つかって良かった。」と声を掛け、ハヤト君に目線を合わせるように、しゃがみ込んで、大きな手でハヤト君の小さな頭を撫でている姿は、今まで見た中で一番素の姿に見えた。
見た目は怖そうだけど、ホントは物知りで、優しい人。
私の中で、優佑君の印象は会う度に良くなっていった。
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