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阿子の誕生日のすぐ後、彼が、仕事でこっちに来ることになって、久しぶりに会えるから、ちょっとおしゃれなお店で食事しようってなったの。
だから優佑君達がバイトしてるお店に予約して、食事した。
そしたら、店長が気を使ってワインのサービスをしてくれたの。
それが彼には気になったみたいで、私が男の子と遊んで、浮気してるって言ってきたの。
その前から、彼とはちょっとギクシャクしてて。
全然会えないし、連絡も業務連絡みたいなことしか無くて。
私も仕事が忙しそうだから、気を使っちゃって、「寂しい」なんて言えなくて。
「会いたい」なんて、もっと言えなくて。
でも、ずっと我慢してた気持ちを、ぶつけちゃたの。
「私の事、ほったらかしにしておいて。連絡しても全然返ってこないし、話も聞いてくれないのに、新しい友達ができたら、浮気してるって、酷い。
みんな、私に彼氏がいる事もちゃんと知ってるし、私が寂しい思いをしてる事も知ってくれてる。」
「仕事が忙しいんだから仕方なだろ。学生の頃と違って、いつも一緒に居られるわけじゃ無いんだから。
今日だって、紫苑に会うために昼飯抜いて仕事してたんだ。それを、遊んでる紫苑に責められたく無いよ。」
「仕事が忙しい事、知ってるから、邪魔しないように、連絡してくれるのを待ってたのに。
仕事して離れたら、私の事、考える時間も無くなっちゃった?会えなくて寂しいって思ってたのは、私だけ?」
「何だよそれ。俺だって会えなくて寂しかったし、連絡だってしようと思ってたよ。」
「でも、今日、会う約束するまで、1ヶ月も連絡くれなかった。毎朝してた、『おはよう』と『お休み』のLINEも無くなっちゃたよね。」
「紫苑だって、してこないじゃないか。」
「それは…。」
久しぶりの楽しいデートのはずだったのに、笑顔だったのは最初だけ。
せっかくの美味しい料理も、味なんて分からなかった。
ケンカしたまま、彼は帰って行った。
優佑君は、彼と私が口論してるところを見てて、「余計なことしてごめん。」って謝ってくれたの。
何も悪い事してないのに。
そして、悩んでる私の気持ちを全部聞いてくれた。
彼とはもうダメだと思う。
お互いにそれは分っていて、今は、どっちが言い出すのか探り合ってるだけ。
それも、もう疲れたから、週末に私からサヨナラ言う事にした。
こんな風に、気持ちに区切りを付けられてのは、優佑君のおかげ。
いっぱい話を聞いてくれて、いっぱい泣かせてくれた。
モヤモヤしてる気持ちを涙と一緒に、優佑君に全部吐き出したら、心に新鮮な風が通った気がした。
優佑君は大きな手で、私の頭を撫でてくれてるだけなのに、彼との恋に疲弊してる私の心を優しく抱きしめてくれたように感じた。
そんな優しさに、友たちじゃ無い、気持ちが芽生えてしまったの。
彼と別れても、また新しい恋が出来るかもしれないって、思わせてくれたの。
恋に早いに遅いもないよね?
友達が好きな人を好きになる事もあるよね?
選ぶのは優佑君で、阿子じゃ無いよね?
私が優佑君を好きになっちゃいけない理由なんて無いでしょ?
だから、譲るとか、諦めるとか、考えて無いよ。
紫苑は隠しきれない緊張を声にも顔にも出して、目を潤ませながら、言った。
私は、紫苑の話を聞きながら、疑いが確信に変り、確信が焦燥に変わり、焦燥が怒りに変わった。
「私、紫苑に負けるつもり無いから。
今まで以上に優佑君の事捕まえに行くから。」
「そう。私も、私のやり方で恋をするから。」
紫苑は、らしくない、怖い顔をして私をじっと見た。
私は、きっと睨むように紫苑を見ていたと思う。
恋に早いも遅いも無い。
同じ人を好きになる事もある。
紫苑の言い分はその通りで、宣戦布告を受けて立ちながら、震える心を抑え込んでいた。
友だちと同じ人を好きになるって、こんなにもショックで、こんなにも怖くて、こんなに苦しんだ。
でも、絶対に負けない。
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