3・ミラクル発生!?

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 言いにくいことであることは予想できる。  佐藤くんは強く口を結んでから、大きく息を吸い込んだ。 「っ、実は、俺・・・」 「うんうん、実は?」  大丈夫、私の心は準備できている。  大船に乗ったつもりで飛び込んできて。 「俺が」 「佐藤くんが?」 「佐藤ユキなんだっ」 「うんうん、ゲームの関係しゃ・・・って、え?」  たぶん、呼吸が止まった。 「ごほっごほっ」  苦しくなって、呼吸が再開したけど、急激に入ってきた酸素にノドが驚いて、咳が出た。  視界の端で、戸惑っている佐藤くんが見えたけど、とにかく呼吸を整えることに集中させる。  何度か深呼吸を繰り返して、落ち着かせた私が、言葉にすることにできたのは、たった一文字。 「え?」  相当な眼力を込められていたと思う。  佐藤くんは、言葉に詰まりながらも、情報を追加してくれた。 「あ、えっと、だから、その、俺が、ボイマスの桜木伸、なんだ」  その言葉(ボイマス)によって、脳内処理はフル稼動。最速の回転速度を打ち出した。 「さ、佐藤くんが、せっってことぉーー!?」  止まっていた反動は素晴らしく、自分でもびっくりするぐらいの大きな声が出た。 「そ、そう、なんだ」  また視線を逸らされてしまった。  私の声が大きすぎたからか。いや、とにかく情報が、情報がヤバすぎるでしょ。  そのパターンは予測していなかった。  だって、クラスメイトが声優って、そんなパターン。  ミラクルある!?  いや、目の前で起きているわ、ミラクル。  ちょっと落ち着こう私。  え、あ、うん、言われてみれば、あれ、なんか、桜木くんに声が似ている?  いやいや似過ぎでしょ。  あれだけ声、声って言ってるくせに気づかないなんて、なんたる不覚!!  て言うか、て言うか。 「芸名、ひねらな過ぎじゃない?」  すごく似ているとは思っていたけれど、祐希とユキなんて。  いろんなことが近すぎて、信じられないし、繋がらないよ。 「え!? なんか、思いつかなくて?」  佐藤くんにとっても予想外だったのだろう、戸惑いが生まれていた。 「いや、でも芸名とキラキラネームって紙一重って言うか、確かに、意外と難しいかも。そうね、そうよね。他人が口にすべきことじゃないわよね。え、いや、ほんと、ちょっと待って、頭が追いついてないって言うか、通り越しているって言うか……」  手のひらを上げて、佐藤くんの言葉を止めながら、動揺しまくっている脳内にあふれる言葉を吐き出していく。
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