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そう。そう言うことじゃなくて。
落ち着いて、私。
えっと、つまり、目の前に桜木 伸くんがいるってこと、だよね?
声優が目の前にいるってこと、だよね?
声オタとして、こんなアニメみたいな展開があって、いいの? ねぇ?
数十分前の私が否定してた世界が・・・ある?
落ち着こう、私。
「・・・はっ!!」
もしかして、これは寝不足な私が生み出した幻想とか、実はまだ夢の中ってやつ?
「いててっ」
「鈴木さん!?」
ありきたりだけど、頬をつねってみたけど、すごく痛い。
現実だ。今、目の前にいる佐藤くんが、声優ってこと・・・!?
「あ、ちょっと、確認しただけだから、気にしないで」
「あぁ……うん」
ちょっと引いているな佐藤くん。私に話したこと後悔してそう。
でも、聞いた以上、私はこの話からそう簡単に手を引けそうにもない。
「んん。それで、なんで私に相談?」
いまさら取り繕ったところで、とは思いつつも、なんとか、無理やり落ち着かせる。
「あ! その……実は、アプリゲームのダウンロード数があんまり多くないみたいで。
それでっ! イベント追加しようってことになったみたいで、新規ボイスを録ることになったんだけど……それが、その、女の子向けだから、そう言うキュンとさせるセリフで……」
あぁ。なるほど。
佐藤くんの話をまとめるとーー。
ゲームとはいえ、初のメインキャラ!
なんとなくテンプレートでやってきたけど、女の子向けのゲーム。
キュンとさせるセリフがきて、事務所内でやったものの、評価も良くない。
しかし自分でも、どうやったらイイのかが分からない。
マネージャーには「リアルな高校生なんだから、リアルな体験してこい!」なんて言われて、途方に暮れていた。
悩んでいる間に、収録まであまり時間もなくなり、かと言って、演技の参考になりそうな恋愛話ができるクラスメイトがいない。
そんなところに、声オタで、かつ、ゲーム自体をプレイしているクラスメイトがいた。
声優業にも理解してくれそうだし、演技にもうるさ・・・細かそうである。
と言うことらしい。
追い詰められすぎての一大決心な相談じゃない?
さすがに本人にそれを言うことはできないけれど。
でも、そんな風に自分の好きなことが役に立てる時が来るとは思ってもみなかった。
「……事情はわかったけど、ほんとに私でいいの?」
「う、うん。ユーザーの声というか、反応が大事だし、何より、俺のキャラを選んでくれた鈴木さんなら、そういうの分かってくれるのかなって……」
少し恥ずかしそうに目線を逸らす佐藤くん。
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