3・ミラクル発生!?

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 くっ・・・何、そのよく分からない信頼。いや、嬉しいけども!  こういうのが母性本能くすぐるってヤツなのかなぁ?  グサッと胸に刺さる。刺さったよ。  もう、そこまで丸聞こえだった!?って言う現実に軽く目が反らせそう。 「う、うん。」 「その、いくら好きと言えども、迷惑だとは思う。  でも、セリフの練習に付き合ってくれないかっ?  ずっとじゃなくていいんだ。その、収録までの1週間だけ付き合ってほしい」  数分前まで自身無さげだった姿は一変し、強い言葉だった。  佐藤くんがどれだけ必死の想いであるのか、声オタの私には想像に容易い。  だって、いくら私が好きな新人さんとか、好きな声優さんを推しても、売れないときは売れない。  どんなに演技が上手くても、カッコよくても、売れなければ、すぐに声が聞こえなくなってしまう。  華やかにみえる声優の世界、実際は、泥まみれ以上に厳しい世界なのだ。 「……もちろん、いち、ゲームのファンとして、応援したいから」 「鈴木さん、ありがとうっ」  眉間に皺が寄るほど力んでいた佐藤くん。  私の返事を聞くと、安心したように目元が緩んだ。 「あ。もちろん、しょせんは素人だから、あんまり期待しないでね」  力になれるなんて、願ってもいないことだけど、一般人より声優に詳しい、それだけのこと。  期待外れになることもあるので、自分にとっての防波堤を立てておく。  私自身はもちろん、佐藤くんにとっても、期待し過ぎは結果を出せなかった時に大きな後悔となる。 「え、そんな! そういうのは気にしないでいいよ。  正直、ムチャなお願いをしてるのは……自分でもわかってるんだ。  アドバイスを生かせるのは努力次第ってことも。  だから、その、バシバシ意見言ってもらえるだけでも嬉しいんだ」  頼む側とはいえ、控えめで、そして努力に対する姿勢に、再び、心に衝撃が走る。胸が熱くなった。 「分かった! 佐藤くんのその気持ちに応えられるよう全力で頑張るね!」  こうして、私たちの秘密のレッスンをすることに決まった。
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