2人が本棚に入れています
本棚に追加
4・秘密のレッスン!?
オレンジ色に染まる空が窓の外に広がっている。
実験で使う器具が窓側には並んでいて、ガラスにはそれぞれの景色が浮かぶ。
いつも目にしているのは太陽の日差しでキラキラと輝く器具と、たくさんの人影。
でも、今、この部屋にいるのは二人だけの、秘密の空間。
「『マネージャーさん。この仕事の後、予定空いてますか?』・・・どう?」
しんとした部屋に響くのは、スピーカー越しではない、彼の声。
「うーん。なんか、アッサリしてるっていうか……」
絶賛、秘密のレッスン中。
佐藤くんから、大まかな設定を聞いたところによると・・・今度のゲーム収録する内容は”マネージャー(ゲーム主人公)と仕事とは関係ない、お出かけをする”というイベントらしい。
そのことを踏まえて聴いてみると、そもそも、私自身の胸にトキメキの衝撃が生まれてこなかった。
「一応、お出かけってなっているけど、つまりデートみたいなもんでしょ?
なんか、デートに誘われてる!? ドキっ! って驚きとか、展開になるような気がしないんだよねぇ」
今までの声オタとして培ってきた知識しかないので、感じたままを口にする。
これで参考になるのだろうか?と不安になりつつも、佐藤くんの反応を見てみる。
「そっか・・・」
想像以上に、わかりやすいぐらい、かなり、凹んでいる。
どよんとした空気の中にポツンと佐藤くんが取り残されているというか、マンガみたいなタテ線が見える。
「い、いや。えっとねー。悪くはないと思うんだけど、なんというか『桜木 伸』ていうより『佐藤くん』っていう、地が出てる感じ?」
「つまり……演技が、芝居ができて、いない……」
慌ててフォローを口にしたつもりだったが、言葉を続ければ続けるほど、佐藤くんの表情は沈んでいく。
つまり、フォローができてない。自分の不甲斐なさに叫び出したい。頼ってくれた佐藤くんに申し訳なさすぎる!!
「いや、えっと。真面目は真面目でキャラは佐藤くんに違うんだけどね。
ほら『桜木 伸』は委員長キャラでしょう? 普段は今までの通りで問題ないと思うんだけど、なんだろう、女子としては誘われてる!って、思いたいっていうか・・・」
説明しながら、自分でも、何を言っているのか分からなくなってきた。
しかし、”ただ、人を落ち込ませる”なんて声オタとしてのプライドが許せない。
声優さんを応援して、それが活力になったら一番最高だけど……なかなか難しい。
だから、せめて、声優さんが頑張ろうって気持ちになれる、応援をしたい。
私に落ち込んでいるヒマはない。どうにか、佐藤くんに伝わるようなモノを。
ぐるぐると声オタ知識をミックスしながら考えた結果、ナイスなアイディアが浮かんだ。
最初のコメントを投稿しよう!