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夢と現実の狭間のふわふわする意識の中、遠くで金属音がしたような気がした。
「・・・?」
不思議に思いながらまぶたを上げると、男子の制服。佐藤くんか。
そういえば、寝かせてもらってたんだった。
目元をごしごしと擦りながら、起動してぎこちない唇をもごもごと動かす。
「あ、ちょうど、起こそうと思って。もうすぐ時間になるから……」
「んーー。ありがとう。ちょっと眠れて、休めた気がする」
天井に向かって手を伸ばして、少し固まった体を緩める。
大きく呼吸をすると、だんだん、頭も起動してきて、スッキリする視界。
「そっか、良かった」
そのあと、佐藤くんの練習結果を聴いてみたが、眠る前より確かによくはなかったけど、うーん、まだ、足りない、気がする。
せっかく眠らせてもらってスッキリした頭でも、いいアドバイスが浮かばなく、明日に持ち越しとなった。
「忘れ物ないか?」
「うん、大丈夫」
バックを肩にかけながら、廊下を歩く。
残っているのは部活動をしている人だけで、その部活も終わりとなる夕方の廊下に人はほんとんどいない。
キュっと時折、鳴る足音を頭の片隅で聞きながら、今日のレッスンを振り返る。
もうワンパンチ、欲しいのよね。ワンパンチ。
自分の感覚を、人に伝えるって、こんなにも難しいことだとは思わなかった。
佐藤くんと秘密レッスンをはじめて知ることが多かった。
言葉を、台詞を、どう伝えるかをこんなにも考えながら一生懸命に研究して、表現する。
なんとなく頭ではわかっていたけれど、いざ目の前にすると全然違っていた。
ますます、声優への尊敬が強くなり、今後も推して、いや、応援していこう、と強く思った。
「わっ!」
そんなことを考えていたせいか、気づかないうちに近づいていた踊り場から危うく足を滑らせるところだった。
寝起きの体は反応が悪い。
「あぶないっ」
同時にグンと体が引っ張られる。
温もりがあってちょっと硬い何か全身が包まれる。
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