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不安定な体勢になった私の腕からカバンの紐がずれた感覚がしたかと思うと、足元でドサっと、鈍い音が聞こえた。
バランスを崩した瞬間、頭を過った「落ちるかもしれない」という恐怖からバクバクとした心臓がなかなか治らなくて、何度か呼吸を繰り返す。
「あれ?」
「だ、大丈夫?」
そう言えば、温かい。と思って、疑問が口から出ると、耳元に届く、優しい声。
佐藤くんが後ろから引っ張ってくれたので転がり落ちずにすんだと、そこでやっと気付いた。
「あ、ありがとう……」
自分のドジ過ぎるところも恥ずかしさが込み上げてくるが、とりあえず、軽くもない私を抱えるように引っ張りあげてくれた佐藤くんにお礼を言わなくてはと、振り向いた。
すると、普段、弱気な感じの佐藤くんの細いながらも引き締まっている腕が視界に入った。
やっぱり男子なんだな。
普段、見過ごしている力強さを感じつつ、見上げた先には、あまり見ることがない佐藤くんの顔のドアップ。
「・・・」
あれ。佐藤くんって意外と、まつげ長いんだー。うらやましい。まつげで影ができちゃうとかって少女マンガのヒロインじゃん。
「す、鈴木っ!?」
「え?」
「ち、近い・・・」
そう言われて……まつげが見えるってことは、つまり、そういう距離の近さである。
認識した瞬間、なんだか気恥ずかしくなって、体力測定でも出来なかった俊敏さで、上体起こしをして一気に距離をとった。
「ごごごごめん!」
「いや、そのっ、いや、俺こそ、なんか抱き、抱き……」
女の子慣れしてないって分かってはいるけども、赤面しつつも、そんな反応されると、私も、なんか、なんていうか・・・
「い、いや、こちらこそ、失礼しました?」
お互いになんとも言えない空気感。なんなの、まじで。
さっきまで落ち着いていた心臓が再び、ドクドクと胸を打ちはじめた。
あーもうっ! よく分からないやり取りをしてしまった。
しかも、佐藤くんの赤面が感染ったみたいで、なんだか顔が火照ったのが自分でもわかって、熱い。
ますますどうすればいいかわからなくなってしまって、そのまま、ちぐはぐな会話をしながら学校を出ることになった。
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