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学校の最寄駅までは、自転車は必要ないけど、決して近くはない歩道を二人で歩く。
「そう言えば……佐藤くんはなんで、放送部じゃなくて写真同好会に入ったの?」
気まずい雰囲気を変えたい、というのもあったけど、前々から気になっていたことをこの際、聞いてみようと思った。
声優といえば、声に特化した芝居。その多くの声優さんたちが、放送部に所属していた過去をインタビューで語っていた。だから、佐藤くんが放送部に所属していないことが不思議で謎だった。
「あ、えっと。それは……最近、声優雑誌も多くて、それ以外にも写真を撮られることがあるから、慣れろって、マネージャーから言われて……」
「あー……なるほど」
意外と、あっさりとその謎は解けた。
今の時代、声優はキャラクターに隠れる存在でなく、キャラクターとともに表に出る存在となった。
もちろん、私も愛読させてもらっている声優雑誌。声優さんの考え方にもよるけど、アニメやゲームなどの出演作のインタビューや特集の場合、キャラの雰囲気を再現しようとする人が多くいて、画面から飛び出してきたような気分を味わせてくれる。一種のファンサービスだけど、ファンの多くがその再現を期待していることが多い。
そうなると、期待に応えてほしいと事務所は当然、思うわけで……マネージャーさんの心配もわかる。
大人しい佐藤くんが普段から写真を撮りあったり、自撮りなんていう機会は少なささそうだ。撮影の慣れ、慣れないの差はすぐにわかる。この顔の角度!というような見せ方など、経験を積まなければできない技術がそこにはある。
そして、写真に慣れるということは、結果、パフォーマンスにも繋がる。
でも、マネージャーさんに指示されたと言っても、慣れていないものに触れるのはそう簡単なことではない。
意思がないとできないことだ。
もし、私が苦手な運動を「お前のためだ、なんでもイイからスポーツに挑戦しろ」と言われてやるかと言われたら、たぶん、実行できないと思う。
「……も、元々写真も好きだったし、でも撮られるっていうか、写真を撮ること、なんだけど。
目に焼き付けた風景も、空気感を感じさせるような写真撮れた時とか、すごく嬉しくて。そういう写真、好きで。
も、もちろん、それだけじゃなくて、マネージャーの、言葉も自分にとって、後押しになってて。
撮ることの方が多いけど……それをすることによって、イメージがしやすくなるんじゃないかなって……調べたわけじゃないけど、自分ではそう思ってる……」
だから、苦手なことに向き合う佐藤くんは、実はすごく芯が強い男の子なんだと思った。
途中、ちょっと熱が入ってしまって、熱くなった自分を恥じてしまう姿も、声優としての仕事に対しての言葉にも。セリフではない長い言葉に、写真が本当に好き、ということが滲み出ていた。
でも、正直、その姿が「可愛い」なんて思ったりしたりもした。
これが、いわゆる母性本能ってやつなのかも。
愛美が知ったら「恋をジャンプして母性本能にいっちゃうなんてのぞみらしい」と苦笑いしながら言う姿が想像ついて、ひそかに笑ってしまった。
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