5・トラブル発生!?

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 学校の最寄駅までは、自転車は必要ないけど、決して近くはない歩道を二人で歩く。 「そう言えば……佐藤くんはなんで、放送部じゃなくて写真同好会に入ったの?」  気まずい雰囲気を変えたい、というのもあったけど、前々から気になっていたことをこの際、聞いてみようと思った。  声優といえば、声に特化した芝居(ぎじゅつ)。その多くの声優さんたちが、放送部に所属していた過去をインタビューで語っていた。だから、佐藤くんが放送部に所属していないことが不思議で謎だった。 「あ、えっと。それは……最近、声優雑誌も多くて、それ以外にも写真を撮られることがあるから、慣れろって、マネージャーから言われて……」 「あー……なるほど」  意外と、あっさりとその謎は解けた。  今の時代、声優はキャラクターに隠れる存在でなく、キャラクターとともに表に出る存在となった。  もちろん、私も愛読させてもらっている声優雑誌。声優さんの考え方にもよるけど、アニメやゲームなどの出演作のインタビューや特集の場合、キャラの雰囲気を再現しようとする人が多くいて、画面から飛び出してきたような気分を味わせてくれる。一種のファンサービスだけど、ファンの多くがその再現を期待していることが多い。  そうなると、期待に応えてほしいと事務所は当然、思うわけで……マネージャーさんの心配もわかる。  大人しい佐藤くんが普段から写真を撮りあったり、自撮りなんていう機会は少なささそうだ。撮影の慣れ、慣れないの差はすぐにわかる。この顔の角度!というような見せ方など、経験を積まなければできない技術がそこにはある。  そして、写真に慣れるということは、結果、パフォーマンスにも繋がる。  でも、マネージャーさんに指示されたと言っても、慣れていないものに触れるのはそう簡単なことではない。  意思がないとできないことだ。  もし、私が苦手な運動を「お前のためだ、なんでもイイからスポーツに挑戦しろ」と言われてやるかと言われたら、たぶん、実行できないと思う。 「……も、元々写真も好きだったし、でも撮られるっていうか、写真を撮ること、なんだけど。  目に焼き付けた風景も、空気感を感じさせるような写真撮れた時とか、すごく嬉しくて。そういう写真、好きで。  も、もちろん、それだけじゃなくて、マネージャーの、言葉も自分にとって、後押しになってて。  撮ることの方が多いけど……それをすることによって、イメージがしやすくなるんじゃないかなって……調べたわけじゃないけど、自分ではそう思ってる……」  だから、苦手なことに向き合う佐藤くんは、実はすごく芯が強い男の子なんだと思った。  途中、ちょっと熱が入ってしまって、熱くなった自分を恥じてしまう姿も、声優としての仕事に対しての言葉にも。セリフではない長い言葉に、写真が本当に好き、ということが滲み出ていた。  でも、正直、その姿が「可愛い」なんて思ったりしたりもした。  これが、いわゆる母性本能ってやつなのかも。  愛美が知ったら「恋をジャンプして母性本能にいっちゃうなんてのぞみらしい」と苦笑いしながら言う姿が想像ついて、ひそかに笑ってしまった。
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