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6・リアルはムズカシイ!?
苦手なことにも真摯に向き合う佐藤くんを見て、私も、もっと、ちゃんと、きちんと応えたい、応援したいと思った。
今までも、手を抜いたつもりもないし、声オタとして全力で協力していたけど、私には、あえて避けていたモノがあった。
目の前にある本棚に隅っこに、ひっそりと並んでいる本。
ーー声優を目指すボクへ 著・諏訪 潤。
諏訪さまの自伝。生い立ちから今の人気を確立するまでがまとめられているその本は、声優を現実ではないと、線引きしている私にとって、より現実に近づけるものになってしまうため、現在の部分しか読んでいなかった。
でも、この本は、声優を目指す人にとっても、役立つようにと、諏訪さまが行った練習方法や失敗談などが書かれていた。
きっと、これを読んだら、もっと佐藤くんの気持ちがわかったり、伝わらなくて、モヤモヤしちゃった部分を解消できるかもしれないと知りつつも、避けていた。
だけど、佐藤くんと話したり、レッスンをして、二人の時間を過ごすうちに、佐藤くんの素敵なところ知った。たまたまで偶然かもしれないけど、ただの声オタである私を頼ってくれた佐藤くん。もっと応援できる方法を知っているのに、知らないふりはできない。
「あれ? のぞみがめずらしく本を読んでると思ったら、諏訪さまの本じゃない」
沈みかけた思考に飛び込んできたのは愛美の声。
避けてきたページ1枚、1枚が、私にはとても重くて、最後まで読み終わることができなかった。
そのため、学校の休み時間に読み進めて、佐藤くんとのレッスンにも間に合せようと本を持ってきていた。
「……うん」
「リアルに近付かないように読まないようにしてたんじゃないの?」
愛美は、私が現実と声優を線引きしていることを知っている。
もちろん、本の一部分しか読んでいなかったことも知っているし、話していた。
「いろいろあって……ちょっとだけ、触れてみようかなーって」
もう愛美には、いろいろバレているような気がするけど、ごまかすように笑うしか私にはできなかった。
「ふーん。いろいろねー」
「あ、はは」
「まぁ、悪くない心境の変化だと思うよ。誰の影響かは、話したくなったら話してくれると嬉しいけど」
そう言うと、愛美は、私の頭を優しく撫でた。
「愛美……」
心がほんわかとしてきて、涙が出そうになるのをグッとこらえた。
「ただし、無理はし過ぎないように、ね?」
「うん」
ほんとに愛美は、優しくて気遣い上手で、面倒な私も包み込んでしまうぐらい頼れるお姉ちゃんだ。そんでもって、大好きな友達。胸を張って、報告できるように、頑張ろうと思った。
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