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7・最後の仕上げ!?
「えっと、そんなこんなで? オーディションに合格したけど預かりだから、事務所のホームページに佐藤くんのプロフィールが載ってなかったのね」
意外なキッカケに驚きながらも、佐藤くんが声優事務所の”預かり”という立ち位置であることを知り、ひとり納得してうなずく。
探しても見つからなかったワケだ。
事務所によってホームページに掲載する基準が違う。声優事務所の預かりは、言わば、仮所属。事務所に所属しているけど、研究生の扱いに近いもの。その育成期間中である新人を、どの時点でプロフィールを載せるか違いがあるものの、大体、声優の仕事やメインキャラを演じた場合はその基準を超えて載せる。
しかし、最近、仕事をはじめたばかりだったり、プロフィール情報がまとまってなかったりするとそのホームページに載るということに間に合わない。佐藤くんの場合はこれに該当しそう。
「でも、オーディションの写真っていうか、事務所の? プロフィール写真は??」
「・・・」
私の質問に対して、佐藤くんが微妙な顔をしたので、これはデータを持っているに間違いない。という確信になった。
「チラッとでもいいから、見せてほしいー!」
もちろん、イヤと言われたら引き下がるつもりだったので、軽い調子で聞いたのだけど。
佐藤くんは頼まれたら断れないのだろうか、目線をあちこちに動かしたあと、大きく深呼吸した。
「写真を撮られるのはまだ慣れていないんだ……」
おずおずと出されたスマホ。
本当に気がいい人だ。というか、押しに弱いっていうか。なんか、段々心配になってきた。
そんな親戚おばあちゃんみたいな心配をしてるなんて気付きもしない佐藤くんが見せてくれた写真は、可もなく不可もなくっていうか、学生証みたいな、うん、普通だった。決して、悪いワケではないが、良いワケでもない。
「・・・なるほど」
口から思わずこぼれてしまった自分の声は、苦いドリンクを飲んだあとのような渋い声だった。
目の前にある佐藤くんのプロフィール写真は、メガネはしたままだけど、普段下げっぱなしの前髪を少し上げて、目元がよく見えるようにしただけだった。
写真”だけ”なら、佐藤くん演じる”桜木 伸”のような委員長に見える。
これもオーディションに受かった一つの要因なんだろうなぁ。
キャラクターと演じる声優の差異が少ないことが好まれるのも、最近の声優事情でもある。
「でもさ……?」
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