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「そ! そんなことないよ!!」
決して大きな声でこぼしたつもりはなかったし、実際、そうだったと思う。
だけど、私のそんな弱弱な言葉を聞いた佐藤くんの跳ねたような言葉に驚いて固まってしまった。
「事務所の写真は、もしかしたら、このスタイルに変えるかもしれないけれど……このことを知っているのは鈴木さんだけだし、他のクラスメイトになんて言うつもりないしっ、そのっえっと……」
普段では、今までは考えられないぐらい、すごい勢いだった。
途中で、驚いてポカンとしてしまっていた私に気づいたらしく、最後の方は段々と声が小さくなってしまったけど。けど。ダメかもしれないけど、そんな風に、私たちの関係を大事に感じてもらえてるってわかって、心がホカホカと温かくなって、すごく嬉しくなった。
「ふふっ。ありがとう。そうなら嬉しい」
「う、うん」
佐藤くんも色々語ってしまったから、顔がすこし赤く染まっている。たぶん、私も染まっていると思う。
「あっもう、こんな時間。おしゃべりが楽しくで長話しちゃった。練習しよっか??」
視界に入った時計を見ると、下校する時間が近づいていた。
楽しいけど、収録まで時間がもうない。
「そ、そうだね」
佐藤くんの返事を聞きながら、この時間に終わりが近づいていることが、ちょっとだけ、寂しい気がしてしまっている。
「すぅ……」
息を吐く音、吸う音。
深い深呼吸が聞こえて、佐藤くんが気持ちを切り替えているのがわかる。
「『マネージャーさん、僕のこと、好きーーっですか?』」
目線が合う。
何度も聞いていたセリフのはずなのに、胸が高鳴った。
「・・・どうかな?」
「いい! いいよ!! なんか気持ちがすごく入ってて、でも隠しているって言うか、そう言う熱い想いが見え隠れしている感じ!」
思わず、手を握ってしまうほど、佐藤くんの”演技”に、”成長”に、感激してしまった。
私が一人であれこれ、考えてしまったけど、最後はやっぱり感情が揺れ動かされる演技を生み出した佐藤くんはすごい。
「っ! あ、ありがとう」
佐藤くんも私のテンションの上がり方で手応えを感じたらしく、嬉しそうに笑った。そして、お互いに、握りしめた手を上下に振って、この気持ちを共有した。
「収録、明日だったよね??」
「うん」
「頑張ってね!」
浮き立つ気持ちのまま、両手でグーをつくって、ファイトポーズを取る。
そんな私を見た佐藤くんは、ふっと口元を緩めた。
「……鈴木さん、本当にありがとう」
「どういたしまして!」
こうして私たちは笑顔で秘密のレッスンを終えた。
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