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「えっと、のぞみ? 妄想に入っているところ、申し訳ないけど、授業もう始まるから、電源切らないと、諏訪さまの声、聞けなくなるわよ」
熱い決意によって握りしめたスマホはミシミシと嫌な音を上げていた。
「はっ! ありがとう! 愛美っ!」
「どーいたしまして? 携帯を取り上げられたのぞみは、燃え尽きたどころか、魂が飛びかけてたし、それをフォローするのもねぇ。大変って言うか?」
クスクスと声を漏らす愛美を横目に思い出す、あの地獄。
以前、うっかり、魅惑の素敵ボイスに夢中になりすぎて、授業前にカバンにしまうことを忘れてしまい、スマホを没収されたことがあった。
いやー……私が校則を守らなかったのがいけないんだけど。ほんとのほんと、あの時は本当に体と魂が分離しちゃう手前まで行きそうだったけど。日々の授業態度と初回、ということで、厳重注意での返却をしてもらい、いまはこうして、無事に生還しています。
もう二度と同じようなツラいこと繰り返せない。
むしろ、「二度とやりません!」と先生に誓ったばかりだ。
「はぁ」
ここは心を鬼にする決断の時。
大きく深呼吸をして、パチパチと瞬きを繰り返すウィリアムと向き合う。
「諏訪さま……ううん、ウィリアム。少しの間、お別れだけど……お互い頑張ろうね」
決断という名の、スマホの電源OFF。
画面が真っ暗になり、自分の顔が反射すると、静かに机にかけてあるバックにしまう。
心を落ち着かせて行うこれは、日々の儀式に近いものがある。
「はー。ほんと、いつ見ても慣れないわ」
一連の流れを見ていた愛美は腕を組みながら呟いている。
たしかに、私の愛は、すこし重いかもしれないけれど。周りに声優オタクが少ないので、自分がどれくらいなのかレベルがわからない。
「そう?」
「なんかでも突き抜けたオタクだから、もはや尊敬に値するっていうか」
感心したように細かく頷きを繰り返す愛美。もしかして……
「え!? 魅惑のボイスワールドにようこ…」
「そういう尊敬とかじゃないから。うん、私はリアルな恋を求めてるから」
手のひらを突き出して、言葉を遮られる。
「えぇ!?」
最後まで言わせて欲しかった!
てか、そう意味じゃないんかい!
「ちっ」
心の中で一人で、ノリツッコミをしていた勢いで、思わず声が漏れてしまった。
「ほーんと、のぞみのそのギャップ、すごいわ」
「うん? ありがとう?」
愛美の言っていることはよくわからないけど「すごい」と言われたのでお礼をね。
ちなみに、私と声オタトークができる仲間は常に募集しています。
もっともっと、熱く、深く語れる仲間が欲しい!
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