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約束したお気に入りのカフェは電車を乗り継いだ場所にある、ちょっとした隠れ家カフェだ。
オフィスビル街にあるにも関わらず、口コミでの人気で、客足は絶えない。
楽しそうな会話があちらこちらからこぼれ落ちてくる中、私たちテーブルに向かい合って座った。
「鈴木さん、ありがとう。収録はちょっと時間かかっちゃったけど、マネージャーさんに”良かった”って言われたよ」
「ほんと!? 良かったー!! はぁー。自分のことみたいにドキドキして眠れなかった、って言い切れないけど、でも、ずーっと佐藤くんのことばかり考えてた」
約2日と言ってもいいほど、確実に24時間以上、佐藤くんの事が気になっていた。
その悩みにも似た、モヤモヤとした気になることが消え、心のときめきを塞き止めていたものがなくなりホッと息をついた。
これで心置きなくウィリアムとも会える。
「えっ! それって……」
数日分溜まっていた脳内情報を処理していたため、何か言いかけた佐藤くんの言葉がよく聞こえなかった。
「ん? どうかした??」
頑張ったのは佐藤くんなのに、ちゃんと話を聞かなくちゃ。
つい自分の世界に行ってしまうところが私の悪いところだ。
心の中で反省しながら、続きを待つ。
「いっいや。なんでもないっ」
・・・なんか挙動不審な佐藤くん。どうしたのかな?
「そう?」
「あ、うん。そ、それで、お礼というか、その、このカフェで好きなだけ食べてもらいたい、と思います」
不思議に思って確認したはずなのに、佐藤くんの最後の言葉にその気持ちはかき消えてしまった。
「え、それって、もしかして」
「えっと、おごりっていうか、カフェ代をプレゼントっていうか……」
「ほんとに!? じゃあ、デザートも頼んじゃおうっと」
おごりと聞いて、ここぞとばかりにデザートメニューをチェックする。
デザートは別腹なのは、世界の共通認識!
パラパラとメニューをめくりながら、豊富なデザートの数々にあれこれと悩んでしまう。
ふと、佐藤くんが何も喋っていないことに気づいた。
「・・・」
また、放置してしまったと反省しながら、こっそり目線を上げると、陽だまりみたいに穏やかに微笑んでいた。
……いつもと立場が逆転してるような気がして、顔が急激に熱くなってしまった。
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