2人が本棚に入れています
本棚に追加
動かずに同じ姿勢を保っていた体は、ちょっとした石像になったように固まっている。
しかし、それはチャイムの音とともに解放され、天井に向かって手を、床に向かって足を伸ばす。
「んー! 終わったぁーー!!」
最後の授業である6限目まで、なんとか眠気と戦いつつも終わらせた私。
エライぞ、私。やればできる子。
しかし、私の1日は、これからが本番なんだから、早く家に帰って、ボイマスくんをやらなきゃ。
「のぞみー。私、今日、部活あるから、また来週だね」
伸ばすことによって体は開放感を感じていると、慣れ親しんだ声が近づいてくる。
一限目ではかなりお世話になりっぱなしであった感謝すべき声の主、愛美。
教室で深い眠りにつきそうなところ、鉄拳という名の、愛のムチで目を覚まして、今のこの時間まで頑張れた。ありがとう。ちょっぴり痛いけど、これも愛。ラブ。
「いい? 土日だからって、あんまりゲームに夢中になりすぎないよーにね!」
人差し指を立てて、言い聞かせるように指を上下に揺らす。
放課後になった瞬間、早速、カバンから出したスマホを取り出した私に苦笑しつつも、優しく気遣いを忘れない愛美はバスケ部に所属している。
運動が苦手な私からしたら、羨ましすぎて、まぶしい。
そんな愛美は1年生ながらエース候補でもある。そのこともあり、近寄りがたい存在に思われがちだけど、教室では、私の面倒を見てくれる。ほんと、切られても離れたくない、頼れるお姉ちゃん的な存在だ。
「はーい。いってらっしゃーい。また来週ぅー」
帰宅部である私はそんな期待のホープであり、キラキラと輝くお姉ちゃんを見送る。
大きなスポーツバックを肩に体育館へ向かう愛美の姿が見えなくなり、声は遠くになると、私は帰宅の準備をはじめた。
なんと言っても、声オタの私は部活に参加している時間はない。
顔を上げれば、いつのまにか、部活や帰宅する人でまばらになった教室。
窓の外からは準備運動をはじめる声が聞こえはじめてくる。
決して運動が苦手なわけでも、嫌いなわけでもない。
ただ、好きなことに、時間を割きたいだけ。
意外だと言われることがあるけれど、こういう”青春”を感じる空気、私は結構、好き。
だって、アニメや漫画の世界を体感してるってことでしょ?
それって”すごく素敵なこと”だと思う。
もちろん、それが自分自身に起きるとは思ってない。
なぜなら現実男子と青春なんて、想像がつかない。
それに、今の私は推し事だけで充実しているんだから。
帰りの準備が終わって少し膨らんだカバンに影ができた。
最初のコメントを投稿しよう!