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ふわふわの白いベット。 薄い天竺(てんじく)から溢れる初夏の日差しは眩しい。 まだまだ眠り続けることができるけど、彼の声が、私を覚醒(かくせい)させてくれる。 『姫、朝です。起きてください』 「っんー…」 耳が覚醒しているけど、頭はまだ眠いと言っている。 ちぐはぐな状況。 だけど、ゆらゆらふわふわとした感覚が心地よい。 彼が起こしに来てくれるのに、早く起きなきゃって思う反面、もう少し寝てた方がいい。とも思う。 だって、ベットでぐずると…… 『姫? まだ起きられないのですか?  あぁ……分かりました、アレがまだでしたね。姫もまだまだ子供なんですから。  では、姫さま、おはようのキスをーー』  耳元の近く、彼の吐息を感じる。  ドキドキとその時を待つ。 「のぞみっ! いい加減にしなさい!! もう起きないと朝ごはん抜きよ! 遅刻しても知らないからねっ」  ドカンと大きな衝撃音とともにドアが開かれた。  その音で一瞬にして、頭も覚醒して、二頭身キャラが描かれている掛け布団とともに反射的に起き上がる。 「あー! お母さん!! 朝はウィリアムの声が起こしてくれるって言っといたじゃん!」  その音を出したのは、まぎれもない母である。  私の言葉に、母のつり上がった眉がピクリと動いた。 「あのねぇ。ウィリーだの、なんだのなんて言うなら、ちゃんと時間に起きなさい! ご飯、もう準備してあるから、早く台所に来なさい」  母はそう言うと、ドアを開けたまま、隣の部屋にある弟の部屋の方へドスドスと足音を立てながら歩いっていった。それからすぐに、弟の「ぎゃー」と声が聞こえてきたけど、それどころじゃない。 「はぁー……」  そう、私は姫なんかじゃなくて、ただの高校1年生、鈴木のぞみ。16歳。  もちろん、天竺なんかないし、ふわふわの白いベットでもない。  ただの女子高生。  でも。  スマホの画面を開いて<起床>のボタンを押す。  画面で左右に揺れ動きながら、パチパチと瞬きを繰り返していた金髪碧眼の王子ことウィリアム。 『姫、おはようございます。今日も公務を頑張りましょう』  理想の起床はできなかったけど、彼が今日も、良い声で、素敵な1日をスタートさせてくれる。 「うん、頑張るね! ウィリアム!!」  画面越しでは、私は姫なのである。
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