国民は虫以外

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 僕の妻はSNSで知り合った人だ。  もっといえば、マッチングアプリで出会った人だ。  妻は容姿はそんなに優れていないが、性格がかわいく、また価値観は素晴らしく、一緒にいてとても満たされる人だ。  そんな妻も、僕と結婚する前は、マッチングアプリで多数の人と出会ったらしい。いろんな人がいたが、最終的に僕と結婚することに決めたと言っていた。   妻と一緒に駅の改札を通ったとき、妻は手首の内側を自動改札機にかざし、通過していた。確かに自動改札機は光と文字を表示し、金額をカウントしていた。こないだまで妻は通常通り、ICカードをかざし、通過していたはずだった。いつから手首がICカード代わりになったのか。そもそも我が国において、なぜ手首をかざすことで改札を通過できるようになっているのか。 「前からそうだったっけ?」 「前からって?」 「いや、あの、だから、前から手首かざして改札通ってたかな?」 「ううん、ちがうよ。こないだ○○市から通知が届いて、マッチングアプリを使っている国民の数を把握したいから、マイクロチップを身体に埋め込んでくださいって要請があったから、それに従っただけだよ」  一陣の風が吹いて、細い髪が妻の顔を隠した。 「あ、え、そうなんだ。ということは僕にも通知がそのうち届くのかな」  なんとなく慌てて妻に聞くと、 「正幸さんには届かないよ。だってあなた、人間じゃなくて、実は昆虫じゃない?虫は国民には含まれないからね」  途端に足元がさあっと揺らめいた。さっきまで直立二足歩行をしていたのに、急に六本の足で地面に這いつくばってでしか歩けなくなった。 「あ、え、(ギギ)ぼくって昆虫だったの?どうりで君といても(ギ ギ ギギギッギギギギギギギギギギ   ギギギ ギイ ギイギイギイギイ)なんか釣り合わないなって(ギーギーギ ギ ギギギッギギギギギギ)今まで感じることもよくあったんだけど(ギギギッギギギギギ ギッコギッコ ギーギ)……」  僕は這いつくばったまま妻を見上げたかったが、目は前方にしか向けることができず、また景色は何重にもぼやけていた。
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