2人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆっくりと、暗闇が晴れる。すっかりくっついてしまった瞼をこじ開ければ、見慣れない青髪の男の顔が目に入った。
「やあ」
「うわあ!」
絶叫とともに白露は飛び起きる。何故だか全身が痛いが、そんなことにかまっている余裕はない。誰だ、この男は!
「あはは、そんなに驚く?」
「だっ、誰だよアンタ!」
「月坂竜胆。よろしく」
男――月坂竜胆は黄金色の目を細め、あっさりと名乗り上げる。どこか妖しげな空気感を纏う男だ。
「で、君は?」
「え?」
「君の名前。あるでしょ?」
「あ、え……知らない人に名前とか……」
「大丈夫大丈夫。僕も君も、もう『人』じゃないからね」
「は」
薄い笑みを貼り付けたままの月坂から放たれた言葉の意味が入ってこない。人じゃない? この男、頭沸いてるのか? 白露は目を白黒させて月坂を睨む。
かち合った視線の先、月坂の双眸に一瞬陰が差す。
「……まあ、何も知らないよねえ。君はここに来たばかりだから」
「ここに? ……あっそうだ、オレ、あいつに閉じ込められて――」
ハッとして辺りを見渡す。そこはさっきまで白露がいたはずの、だだっ広く無機質な部屋ではなかった。
暗闇の垂れ込める異常な世界。瓦礫や崩れかけたビルの並ぶ、退廃した大都会。赤黒く不気味な空が、朧気な月を隠している。
そこは確かに、白露の知らない場所だった。
「…………」
「君はまだ人のかたちを保ってる。ひとつひとつ教えてあげるから、ついておいで。ここは危ないからね」
声を失った白露の細い腕を、月坂が掴む。
「ここは人間だったバケモノたちのゴミ捨て場さ。地獄都市へようこそ、新人くん」
最初のコメントを投稿しよう!