縁結びごはん

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 萌奈はもう箸を持ち、カレイの煮付けを口に運んでいる。口の中で解けた身に脂が乗っており、思わず唸りをあげる。 「ん〜〜〜っ、美味しいです。店長の食事を口にするとこの店にきた目的を忘れてしまいます。早く結婚相手を見つけないとダメなんですけど、……ん〜〜〜、美味ひぃ」  箸が止まらず、萌奈は今日も誰とも相席をせずに店長に見守られながら御膳を完食した。 「はぁ……」 「もえちゃん、どうかしました? 口に合わなかった?」 「いえ、すっごく美味しかったです」 「それは何より」 「……でも、結局……」  がらんとした店内に客はもう居ない。萌奈が料理を堪能しているうちに、男性のおひとりさまたちは食事を済ませ、店を後にしていた。 「結局、この店で、誰とも相席してないんです」 「……しなくていいんじゃないですか?」  店主は無愛想に言い、萌奈が食べた御膳を下げた。 「な、んでですか。ばぁちゃんに結婚した姿を見せたくて……」 「はい。そう言ってましたね。でも、結婚はそもそも誰かのためにするものじゃないと思います」  正論を言われ、萌奈は固まった。 「結婚って理想を描くとハードルが高くなりますよね。……実際は明日の飯を一緒に食いたいな、くらいの感覚でいないと続かない気がします。居心地いい時間が積み重なって、それを誰かと共有することが幸せだと感じれば、結婚に繋がる気がします」  萌奈は眼から鱗が落ちたような思いがした。思ってもみなかった価値観の話にガチガチと固まっていた結婚に対する感情が溶けていく。  そんな風に暖かくて、優しい関係を丁寧に繋いで、結婚を決めるっていいなぁ。  萌奈は心から、そう思った。 「なんて……結婚したことがない俺が言うのは、説得力がないですね」  緩んだ強面を萌奈はじっと見つめる。  この店に訪れた初めから、誰かと相席する必要はなかった。なぜなら、萌奈がずっと話をしたいと、もっと知りたいと、好奇心と好意を向ける人物は訪れる客の中には居なかった。相手はもう常に店にいて、迎える側だったから。 「じゃあ、私とその説得力を作りますか?」  店主は一瞬、目を見張った。  そして、徐々に照れた顔に変化した。 「実は、……もえちゃんが選んだメニューは、全部、俺の好物です。……食の嗜好は確かな説得力ですよね。他の相性も試してみますか?」
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