ー 3 ー

13/16
前へ
/42ページ
次へ
 なんとか涙が止まったので、ふらふらとドアに向かった。  靴を履いていたら、ドアが開いて慶太さんが入ってきた。厚みのある本を抱えている。 「柚?」 「……っ」  私は俯いて、慶太さんの隣を通り過ぎようとした。 「え? 柚、どうした?」  慶太さんが私の腕を掴む。 「どうしたって……! 慶太さんが私より柴さんを優先させたんじゃない。私、帰る……」  私は慶太さんの手を振り払って、ドアノブに手を掛けた。 「ちょっと待って、柚!」  慶太さんが私を後ろからぎゅっと抱きしめた。 「や! 離して……っ」  私は彼から逃れようと、必死でもがいた。 「柚、聞いて。今、柴さんに『彼女を悲しませたくないから、もう2人では会わない』って言ってきた」 (……えっ?)  私は動きを止めた。 「電話とかメッセージとかじゃ誠意が見せられない気がして、直接会って伝えてきた」  慶太さんは柴さんを優先させたんじゃなかったの?  私に呆れたんじゃないの?  行くって……直接会って誠意を見せてくるって意味だったの?  体から力が抜けていく。 「慶太さん、分かりにくいよ……」  止まったと思った涙がまた溢れた。 「俺、柴さんの気持ちに応えられないから、せめて同僚として話は聞いてあげなきゃって思って……。でも、それは優しさじゃ無かったのかもな」  慶太さんがぎゅっと私を抱きしめる。 「不安にさせてごめんな」 「慶太さん……」
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加