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なんとか涙が止まったので、ふらふらとドアに向かった。
靴を履いていたら、ドアが開いて慶太さんが入ってきた。厚みのある本を抱えている。
「柚?」
「……っ」
私は俯いて、慶太さんの隣を通り過ぎようとした。
「え? 柚、どうした?」
慶太さんが私の腕を掴む。
「どうしたって……! 慶太さんが私より柴さんを優先させたんじゃない。私、帰る……」
私は慶太さんの手を振り払って、ドアノブに手を掛けた。
「ちょっと待って、柚!」
慶太さんが私を後ろからぎゅっと抱きしめた。
「や! 離して……っ」
私は彼から逃れようと、必死でもがいた。
「柚、聞いて。今、柴さんに『彼女を悲しませたくないから、もう2人では会わない』って言ってきた」
(……えっ?)
私は動きを止めた。
「電話とかメッセージとかじゃ誠意が見せられない気がして、直接会って伝えてきた」
慶太さんは柴さんを優先させたんじゃなかったの?
私に呆れたんじゃないの?
行くって……直接会って誠意を見せてくるって意味だったの?
体から力が抜けていく。
「慶太さん、分かりにくいよ……」
止まったと思った涙がまた溢れた。
「俺、柴さんの気持ちに応えられないから、せめて同僚として話は聞いてあげなきゃって思って……。でも、それは優しさじゃ無かったのかもな」
慶太さんがぎゅっと私を抱きしめる。
「不安にさせてごめんな」
「慶太さん……」
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