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第一夜
ついにその日が来た。
おとなの仲間入り。
人間の世界では、おめでたいことなのだろう。
しかし僕らの世界では、そうとは限らない。
今、人間界には感染力の強いウィルスが蔓延。
既に100万人の仲間達も還らぬ者となった。
僕の担当は日本の東京地区。
オリンピックを控えた東京。
多国語に対処するため、臨時学習が開催されている。
今日から7日間の勤務期間。
無事に過ごせることを祈った。
ここは、Sleep sheep rand.🐏
「眠羊の国」
「民謡の国」と読んだ人は夢を忘れた大人。
「ねむりひつじのくに」が正解。
「息子達よ。人間達に、安らかな眠りを届けておいで」
僕の父は、無事にお勤めを終えた。
しかし、母は還って来なかった。
「お父さん、行って参ります」
そう言って三つ子の僕達は、人間界へと旅立ったのである。
初日は安全な仕事を振られる。
今夜の勤務先は誰かな…
頭の中へそっと潜り込み、眠る時を待つ。
22:30(人間界)
(こんな時間に、まだ仕事なんだ…)
広い部屋の中で、激しい討論?の最中。
「総理!こんな状況で、安全なオリンピックがどうしてできると言えるんですか⁉️」
「ですから、何度も言いますが、できる限りの体制を…」
「できる限りとはなんですか⁉️」
(まだ話してる途中なのに…)
「今日の東京の新規感染者数は1240人!緊急事態宣言を解除して、また増加傾向です。いつ安全になるのですか、総理⁉️」
(それは、この人のせいなの?)
「分かりませんよね!そんな状況でオリンピックなんてありえません❗️」
(分かってるなら、きかなくてもいいのに…)
総理の目を通して部屋の状況も見えた。
「オリンピック対策委員会」の横幕。
(…これが?)
総理の心の声も聞こえた。
(それを考えるための委員会じゃないか…)
その通りだと思った。
結局なにもまとまらず解散。
おじさんは疲れた足取りで部屋へ入った。
(はぁ…いったいどうすれば…)
何だかかわいそうに思えた。
日本人には人情ってものがあって、助け合い、いたわり合う民族と習っていた。
(ぜんぜん違う…)
その後も、入れ替わり立ち替わり人が来たり、電話が鳴ったり。
おじさんが、ベッドへ入れたのは2:00。
(せめて、いい夢を見させてあげよう)
おじさんの疲れた心を、モフモフの体で、優しく包み込んであげた。
(お疲れ様。おやすみなさい💤)
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