第一夜

1/1
43人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

第一夜

ついにその日が来た。 おとなの仲間入り。 人間の世界では、おめでたいことなのだろう。 しかし僕らの世界では、そうとは限らない。 今、人間界には感染力の強いウィルスが蔓延。 既に100万人の仲間達も還らぬ者となった。 僕の担当は日本の東京地区。 オリンピックを控えた東京。 多国語に対処するため、臨時学習が開催されている。 今日から7日間の勤務期間。 無事に過ごせることを祈った。 ここは、Sleep sheep rand.🐏 「眠羊の国」 「民謡の国」と読んだ人は夢を忘れた大人。 「ねむりひつじのくに」が正解。 「息子達よ。人間達に、安らかな眠りを届けておいで」 僕の父は、無事にお勤めを終えた。 しかし、母は還って来なかった。 「お父さん、行って参ります」 そう言って三つ子の僕達は、人間界へと旅立ったのである。 初日は安全な仕事を振られる。 今夜の勤務先は誰かな… 頭の中へそっと潜り込み、眠る時を待つ。 22:30(人間界) (こんな時間に、まだ仕事なんだ…) 広い部屋の中で、激しい討論?の最中。 「総理!こんな状況で、安全なオリンピックがどうしてできると言えるんですか⁉️」 「ですから、何度も言いますが、できる限りの体制を…」 「できる限りとはなんですか⁉️」 (まだ話してる途中なのに…) 「今日の東京の新規感染者数は1240人!緊急事態宣言を解除して、また増加傾向です。いつ安全になるのですか、総理⁉️」 (それは、この人のせいなの?) 「分かりませんよね!そんな状況でオリンピックなんてありえません❗️」 (分かってるなら、きかなくてもいいのに…) 総理の目を通して部屋の状況も見えた。 「オリンピック対策委員会」の横幕。 (…これが?) 総理の心の声も聞こえた。 (それを考えるための委員会じゃないか…) その通りだと思った。 結局なにもまとまらず解散。 おじさんは疲れた足取りで部屋へ入った。 (はぁ…いったいどうすれば…) 何だかかわいそうに思えた。 日本人には人情ってものがあって、助け合い、いたわり合う民族と習っていた。 (ぜんぜん違う…) その後も、入れ替わり立ち替わり人が来たり、電話が鳴ったり。 おじさんが、ベッドへ入れたのは2:00。 (せめて、いい夢を見させてあげよう) おじさんの疲れた心を、モフモフの体で、優しく包み込んであげた。 (お疲れ様。おやすみなさい💤)
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!