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未だにこちらを見ようとしない健の表情が気になる。
「ねぇ、健……こっち見てよ……」
「……見たらまたキスするよ」
「いいよ、してよ……もっとたくさん……」
目の前で彼氏が別の女の子といる。でも私の気持ちを満たしてくれているのは健の優しいキスだった。なんて幸せなのかしら……。
唇を離すと、健が愛奈の耳元で囁く。
「ねぇ、返事は?」
「……結婚までってこと? 展開が早すぎる」
「早くないよ。俺はずっと待ってたんだ」
「嘘つき。健の歴代の彼女だって知ってるんだからね」
「まぁそれは否定しないけど。でもどんな恋をしても、初恋は大事なんだよ。で、返事は?」
愛奈は健の顔を見て急に恥ずかしくなる。さっきまで弟みたいって言ってたのに、指を絡めてキスをしただけで、もう愛しい人に変わってしまった。
愛奈は一息つくと、カバンからスマホを取り出し、康弘にメールを打ち始めた。たった一言。
『別れよう』
送信してすぐに、目の前の康弘の着信音が鳴る。
「メール?」
「うん、なんでもないよ。大丈夫」
そしてすぐに愛奈の着信音が鳴った。
『わかった』
返事もたった一言。
しかし音が鳴ったことで、康弘は驚いて振り返ると、愛奈と目が合い気まずそうな表情を浮かべる。
その顔を見てわかった。あぁ、私、この人になんの愛情もないんだ。
健の顔は小さい頃から見てるのに、どうしてこんなにかわいいって思うのかしら。
愛奈は健の目を見て答える。
「健を選びたい」
健はにっこり微笑むと、愛奈と自分の荷物を持って立ち上がり、康弘に近付いた。
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