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声の方に目を向けると、中年の男女が店員に怒鳴り散らしている。
ここからでは何があったのかわからないが、
聞こえてくる言葉から注文とちがう品がきたらしい。
オーダーミスで言うとは思えないような酷い言葉が
オーダーミスで言うとは思えない音量で聞こえてくる。
声の主の方へ向かい、店員に話しかけて話題を逸らすか、それが原因で
こっちに絡んできたらどうするか、オレが謝ったら収まるか、
そんなことを慎重に考えながらゆっくりケンが立ち上がると、
スズキが右手の指を鳴らした。
高い音が頭に響く。
友達がアコースティックギターのチューニングに使っていた
音叉っていうU字型の金属の道具のような音に似ている。
高校の頃の風景をふと思い出した。
ケンが我に返ると、怒鳴り声は消えて、
代わりにざわつくような戸惑うような声が聞こえてきた。
先ほどの中年男女を見ると、人形のような奇妙な格好で
椅子にへたり込むように座っている。普通ではないことは遠目にもわかった。
「余計はことはするなって言っただろ。」
スズキを睨みつけながらケンは椅子に座る。
「おいおい、ケンくんも同じようなことをしようとしていただろう?
それをもっとスマートに手早くやっただけさ。」
「お前が話を遮られてムカついただけだろ。」
「いいじゃないか、前にも言ったけどこーゆーチカラは誰かを助けるとか、慈善行為って判定じゃないと使えなくなってるからね。使えたってことは
カミサマ方から見ても彼らにこの程度の報いは当然だったってことさ。」
悪びれる様子もなくスズキはコーヒーを口にする。これだ。この変なチカラを見せられたから、オレは目の前のメガネの男がアクマだと言う話を
信じることにした。
「場所を変えようか。どうも騒がしくなってしまった。」
「お前のせいだろ。」
店を出る時に中年二人の横を通り過ぎたが、
虚ろな目で宙を見たまま、スズキが通るときに
怯えたように身体を痙攣させていた。
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