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遠くから救急車の音が聞こえる。さっきのファミレスに向かっているんだろうか。財布から千円札を取り出すと、前を歩くスズキに手渡した。
「自分の飲み物代くらい自分で支払う。」
「いやいや、大丈夫だよ。こんな安いおごりで願い事を一つ消化したなんて
ケチなことは言い出さないよ。」
「オレもこれくらいの安い金額なら奢られたくない。」
「それはアクマ相手にはってことかい?」
「人間相手にもだ。高い金額で奢られるチャンスが減るからな。」
「ふふふ、それがキミの信念なら、まあそれを尊重しようか。」
店を出てしばらく歩くと公園が見えてきた。
「しょうがない。そこのベンチででも続きを話そうか。」
「いいぞ。」
「ふふふ、キミも呑気なのかお人好しなのか、おかしなチカラを使い
アクマを名乗る男に平然と一緒に行動するんだから、大した人間だよ。」
公演のベンチに座る。
「いい年した男が二人で座るのもなんだかなぁ。」
「ケンくん、キミはまだ大学に入ったばかりだろう。公園や校内のベンチで友人たちと語り合ったりはしないのかい?」
「昼飯のときくらいは喋るけど。」
「ではこうしよう、あっちにあるベンチをボクのチカラでこっちに持ってきて、背中合わせに設置するから、二人で背中越しに座って話せば
麻薬の取引でもしてるような感じでキミの気恥ずかしさも消えるだろう。」
「さっきも言ったがもう一度言う。余計なことはするな。」
話をさっさと終わらせないとこいつは何をしでかすか
わかったもんじゃない。
「それで、アンタは罰を受けてる類のアクマなのか?」
「そうそう、その話の途中だった。まあボクは罰を受けているアクマと思ってもらって構わない。どうだい、安心しただろう?」
「ま、魂を奪うような奴ではなさそうだな。」
「おいおい、自分で言っておいてなんだが、アクマの言葉をそんな簡単に
信じない方がいいぜ。」
「魂だけを狙ってる奴なら、こんなまどろっこしい手間かけずに
もっと怪しまれない方法で近づいてくるだろ。少なくともアンタは
そこまで馬鹿じゃなさそうだ。」
「ケンくん、何か物事を進めるというのは案外面倒な手順を
踏まないといけないものなんだよ。役所に提出する書類や
日本料理の下ごしらえ、美しい女性を口説くなんてのにも
面倒な手順が多くある。目的がシンプルなほど手順は複雑になるのさ。」
「恋愛論はいい。三つの願いの話だ。」
「おおそうだそうだ、まいどあり。
ではケンくんの三つの願いを伺いましょうか。」
スズキは背広の内ポケットから手帳を取り出して楽しそうに聞いてきた。
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