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どのくらいか、沈黙のあと、オレは口を開いた。
「昔は親父を恨んだこともあったよ。何の連絡もないのは、
オレたちを捨てて別の女と逃げたと思ったこともあった。
何かの事件に巻き込まれたんじゃないかとも思った。
でも正直今は別にどうなっててもいいくらいには思えるようになった。
ただ、急に親父が現れたり、それがきっかけでオレや母親や妹が
面倒事に巻き込まれるようなことになれば許さない。」
スズキは黙って聞いている。
「親父との思い出も少しはある。
昔自転車の後ろに載せられて家から離れたホームセンターまで
行った思い出だ。そのとき見かけたおもちゃを買ってもらったり、
アイスを買ってもらったり、
別段どーってことない思い出なんだが、そういうのがある。
多分、妹にも、それに母親にはもっとたくさんあるんだろう。
もちろん二人がオレ以上に父親を恨んでる可能性もあるけど、
それはまあ、オレにはわからないから。
だから父親が生きてるか死んでるかわからんが、
不幸を願うってのも違うし、かといって自分勝手に人生を送ってたら
幸せになられるのも腹が立つから、ちょっとだけ幸せになれと願う。
母親と妹はそれ以上に幸せになってるぞってことで、
ちょっとした復讐にもなるしな。」
「キミはどうなんだい?」
スズキが聞いてきた。
「普通この手の願い事なんてのは自分の欲望を満たすことが
真っ先に出てくるもんじゃないのかい?大金でも権力でも恋人でも。
なのにキミは自分の願い事はゼロだ。」
「自分のことは自分で出来るからな。今んとこ病気もケガもないし。」
「それでも将来がどうなるかなんてわからないだろう?
ここで億万長者にでもなっとけば人生安泰じゃないのか?」
「仮にそれで幸せになったとしても、お前のおかげで
幸せになったってのとお前の想像通りの人間っぽい願い事をしたってのが
なんか気に入らないからやめとく。」
「はーはーはー、家族はいいのかい?ボクのおかげで
家族が幸せになるのは?」
「少し気に入らないが、まだ許せる。オレの好き嫌いと二人の幸せを
天秤にかけたら、幸せになる方がいい。」
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