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小さな神社の境内。鳥居の前の参道の真ん中にベンチが置かれている。
スズキはベンチに座って缶コーヒーを飲んでいた。
「珍しく早いな。」
着物姿で日傘をさした若い女性が、スズキに声をかけた。
「今回のお客さんは決断が早くてね。すぐに仕事が終わりましたよ。」
「そうか。それでどうだった?」
スズキの隣に座りながら女性は聞く。
「ボクにはちょっとつまらない人間でしたねぇ。」
「そうか。つまり私にすれば願いを叶えたくなる
良い人間だったということだな。」
「さてどうですかねぇ。」
「ふん、それで、次の仕事にはまだしばらく時間がかかる。」
「それでは適当にブラブラして時間を潰させていただきます。
報酬はいつものとおりで。」
「それで、彼はどうだった?」
立ち上がろうとするスズキを止めるように女性が言う。
「同じことを何度も聞かないでくださいよ。
ただでさえ神様の前では緊張するのに、今度は取り調べか尋問みたいです。」
「ワシはただの使いじゃが、神使の前でウソをつくな。」
「ちょっとしたお世辞ですよ。」
「それで、アクマになってまで救おうとした息子の様子はどうだった?」
スズキは缶コーヒーの文字を眺めながら答える。
「先ほどと同じですよ。ちょっとつまらない人間でしたね。」
「ふん、ずいぶんな父親だな。」
「とっくの昔にわかってることですよ。」
「前にも聞いたことじゃが、お前の罪はすでに償われた。
お前を誑かした輩もすでに捕まり処罰を受けている。
アクマでありながら神の仕事も随分こなしている。
お前が望むなら、ヒトに戻すことも可能なのだぞ?」
「前にお答えしたとおりです。アクマと契約した罪は償いましたが、
彼ら彼女らへの罪は償えていません。」
「それこそヒトにもどって父親として夫として償うべきではないか?」
「代償が消えた瞬間に対価も消えるかもしれませんからね。」
「お前が望んだ三人の命を救う願いは叶えられた。それが覆るようなら
ワシらがなんとかする。」
「セツさんのことは信用してますが、あと100年ほどは様子を見ます。
疑い深い性格なので。」
スズキはそう言ってベンチから立ち上がると姿を消した。
「不器用なところは親子で似とるの。」
セツはそう言い、立ち上がると、鳥居の向こう側へと消えていった。
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