三つの願い事

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 平日の昼過ぎにしてはファミレスは空いていた。 中年の夫婦と学生のグループと一人でいるサラリーマンとケンたちが 先ほどから長居している。混んでくると落ち着かないので、ケンにとっては 店が空いていることはありがたかった。  「アクマがなんで三つの願いをかなえてやるかっていうとだね」 目の前の男、スズキはコーヒーを一口飲むと再び話し始めた。  「まあアクマでも魔人でもなんでもいいんだが、 この手の願いを叶えてやるなんて言ってくるやつには三つタイプある。  一つ目はなんとか騙して魂やら金やらを奪ってやろうってやつだ。 昔話なんかに出てくるアクマのイメージのそれだな。  二つ目は強制的な社会奉仕に駆り出されてる 悪いことやらかして罰を受けてるやつだな。 ほら、犯罪でも軽めの奴なら社会奉仕だなんだボランティアかなんかを強制的にやらされるやつあるだろ。」 ケンも海外のニュースなんかで見たことがある。  「あれと同じだ。つまり、願いを叶えてやるって言って出てきた奴が 魂を奪おうとするアクマだなんて決めつけは 古臭くて視野の狭い考え方ってことだ。」  「アクマが金なんて欲しがるのか?」  「アクマこそ金を欲しがるよ。あれこそ人間の欲望の塊じゃないか。 欲望こそアクマの力の源、魅力ある資源さ。」  「お前のその話を本当だとすると、アクマは半分くらいの確率で 魂を狙ってくる奴ってことになるが。」  「ハハハ、まあそうなるな。」  「やっぱ帰るわ。」  鞄を持って席を立つ。周りから見たら今の自分は おかしな宗教の勧誘を受けている学生にでも見えているんだろうか。  「まあまあ、待て待て、そう焦るなよケンくん。 契約前に詳細を説明する方が、仕事としては丁寧だろう?」 スズキはカップのコーヒーを飲み干すと、 呼び出しのボタンを押して店員を呼び、 コーヒーのおかわりを注文した。  「それで、その罰を受けてる方のアクマってのは、なんでまた 願いを叶える仕事なんてアクマが嫌がりそうな仕事をしてるんだよ。」  「ハハハ、囚人や敵国の捕虜にやらせるなら、やらせる側の得になる仕事か 本人が嫌がる仕事、それは無意味で苦痛な仕事だ。 昔っからどこでもやってることさ。」  「つまりアンタは、罰を受けてるアクマってことか。」  「それなんだが、」 スズキの言葉は、店内に響いた大声で遮られた。
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