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とうとう辛さに耐えきれなくなったノリオは、ニンゲンに相談してみようと思いました。
もちろんニンゲンという生き物は恐ろしいと知っていましたが、恐ろしくもアリ達よりもずっと賢いことも知っていましたので、ニンゲンならばこの辛さをどうにかしてくれるだろうとノリオは考えました。
ホリオはすぐにも歩きだしました。働いていた時は町の方には滅多に行かないノリオだったので、ニンゲンに踏み潰されないように気をつけて相談できそうなニンゲンを探します。
しかし話しかけようにも町を歩くニンゲンはどの人も忙しなく歩いています。誰もノリオのいる地面に気に留めません。段々と辺りは暗くなり、とうとう日が沈んでもニンゲンに話しかけることはできませんでした。
もう諦めてしまおうとしていた時に、窓から明かりが灯る家を見つけました。
壁を伝い、窓から中を除くとおじいさんが時計を修理しています。
(もうこの人しかいない。良い人だといいのだけど)
ノリオは意を決しておじいさんに話しかけることにしました。
「ごめんください、おじいさん。ごめんください」
大きな声で中のおじいさんを呼びました。最初は反応がありませんでしたが、何度も呼びかけるとおじいさんはハッ、としてノリオを見ました。少し驚いた様子でしたが、にっこりとした笑顔でノリオを窓の内へと招きました。
「どうしましたか、小さなお客さん」
「こんばんは、ニンゲンさん。どうかぼくのお話を聞いていただけないでしょうか」
ノリオはこれまでのことを話しました。巣が壊されたこと。働くのが嫌になったこと。1人で生きていこうとしたこと。何故か働いていた時と同じくらい辛くなってしまったこと。その一つ一つを、おじいさんは頷いて聞いていました。
「ぼくわかりません。働かなくてもよくて、もう辛いことは無いはずなのに、どうしてこんなに辛いんだろう。どうしてみんなは辛いはずなのに、一生懸命働くのだろう」
少し考えた後、おじいさんは答えました。
「君の言うことは最もだ。僕も若い時は君と同じことをしたよ。でもね、結局は働きに戻ってきてしまった。働くことが嫌で逃げ出したはずなのに、働かずにはいられなかったんだよねえ。おかしなものさ。ねえ、君。君は働きに戻ったほうがいい。僕はやっぱり働いて良かったと思う。良い事も悪いこともたくさんあったけど、色々と大切なものもできた。この歳になってようやく自分が自分らしく見えて随分と嬉しいんだ。だから君も労働の中に生きるといい。きっと今よりもこれから楽になる。ささ、今日はここで泊めて上げるから、明日になったら戻るといい」
そう言っておじいさんは灯りをそのままに部屋から出ていきました。
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