大園美菜 1

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大園美菜 1

 いよいよ、包帯が取れる日がきた。私の顔はすでに喪われていたと思った。私は一生、人目を忍んで生きて行かなければならないと思った。だが、神はそんな私に救いの手を差し伸べた。いや、救いの手を差し伸べたのは、父親の財力であり、皮膚移植の名医である。神崎医師だ。  私は火事に巻き込まれた。今から三年前だ。その当時、高校二年生だった私は就寝中ということもあり、気が付いた時には周囲を炎で囲まれていた。  しかしながら、身体の三分の二に火傷を負いながらも奇跡的に命は助かった。顔の下半分はひどい火傷を負い、ケロイド状になった顔は自分でも直視できなかった。  その顔は自分で言うのも可笑しな話だが、本当におぞましく、不愉快なものだった。こんな顔で一生を終えるなら、今すぐにも命を絶ちたかった。でも、母親が許さなかった。父親は火事の犠牲になった。父親の分まで生きるのよと、母親に何度も諭された。  父親の大園健一は投資顧問会社を経営していた。顧客から預かったお金を集めて、資産を運用し、お金を増やしていく仕事をしている。周りからは阿漕な商売だと揶揄されていたが、父親はやっかみ半分の彼らの言葉に耳を傾けることはなかった。  私は正直に言うと、父親の仕事の内容などわからなかったし、興味もなかった。そもそも父親は家の中では仕事の話はしない。それは大園家の暗黙のルールであった。
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