大園美菜 1

3/3
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
 夜は眠れてますか?食欲はありますか?学校に進学したいですか?というマニュアル通りの質問に私は辟易した。私はカウンセラーよりも神崎医師と話をしたかった。  ロマンスグレーの黒縁の眼鏡をかけた先生こそが、私を苦しみから解放してくれる。  神崎医師が私に何も告げずにロスに飛び立ったことを知った時、私は悲しみよりも嫉妬を覚えた。ロスで金髪の肉感的な白人女性と手を繋いでいるシーンを脳裏に浮かべたりして、イライラを募らせていた。私には先生が初恋の人だった。私は性格的には奥手で、中学高校と異性とのつきあいはなかった。  どちらかといえば、奔放な母親とは対照的だった。母親は実は本当の母親ではない。父親は私を生んだ母親とは、私が小さい時に死別し、二度目の妻を娶った。つまり、後妻となる。  しかし、私だけが特別ではない。そのような家庭の子どもはクラスに一割ほどいる。彼らは達観しているのか、自身の境遇を恨むこともなく、淡々と学園生活を送っている。彼らに感応するように私も拗ねたりはしない。  まだ、私は幸せな方だ。確かに火災に遭い、死の手前までの壮絶な体験をした。だが、それがなければ、私は今いる世界に感謝できなかったし、神崎医師と会うこともなかった。父親が犠牲になったのは心が痛むが...。  私は日常生活が人並みに送れるようになったら、先生にロスまで会いに行こうと計画していた。それとなく、母親に先生の住所を聞いて、先生を驚かしてやろうと思った。  そんなことを考える余裕が出てきたことから私も含めて、周囲のスタッフもすっかり回復に向かっているとばかりに考えていた。  しかし、私は神崎医師の訃報を聞くことになり、再び生きる気力を失うことになる。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!