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ゆっくりと沈んでいく体は自由が効かず、竜也はただ身を任せて深く深く沈んでいく。ここは冷たい。暗い。寂しい場所だ。上を見上げても暗闇しかない。息はできるが息苦しい。……苦しい。
「分かってるよ」
竜也がそう呟くと、下にいる影が竜也をふわりと抱きとめ、そっと下に降ろした。相変わらず変な場所だ。
辺にあるのは張りぼての劇の小物たち。茂みや、木、ここには似合わない森の背景すらある。……相変わらず、空っぽだ。
────分かってない。あの二人を不幸にしてしまうんだよ。それでもいいの?
影は責めることなく、優しくそう語り掛ける。竜也はその言葉を否定するように急いで顔を向けて、違う!と声を上げた。
「良くない、そんなわけない!でも……!」
────あなたが我慢すればいいだけじゃない。
どこからか女性の声が聞こえると、足元から無数の手が這い上がってきた。それらは先程の影と違い、責めるように竜也を追い詰めていく。
やがて、様々な声が聞こえてきた。
────別にあの二人はお前が居なくなっても何も思わないですよ。むしろ、幸せになるんですし。
────諦めた方がいいぜ。殺したくないんならな。
────言ったじゃん!あんたはそーゆーもんなの!そーゆー宿命なのよ!
ああもう、うるさい。
「うるさい!!!」
竜也が声を荒らげそう叫ぶとその無数の手にヒビが入り水に溶けていった。
しん、と辺りは耳が痛いほどの静寂に包まれる。
黙って見ていた影は、ようやく言葉を発した。
────竜也。辛いのはわかるよ。でもね
「わかってるんだって。やらなきゃいけないことはするよ。だから、あと少し……せめて、夏休みまでは……」
────ダメだよ。運命は待ってくれない。
影の声が一際低くなる。竜也から離れると、上を見上げた。そしていつの間にかスポットライトに照らされる形で椅子がひとつ、ぽつりとそこにあった。
────どうしてもわがままを言うのなら、……俺が、借りる
その言葉に竜也は目を見開く。そして椅子へと向かう影を追いかけた。
「待って!お願い!」
────いい?
影は振り返ると恐らく竜也を見つめる。
────俺らは竜也のために言ってるんだからね。
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