41人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
「──竜也!!」
体を揺さぶられ、竜也は、はっと意識が戻る。とはいえずっと目は開けていたらしい。目の前には心配そうに顔を覗き込む二人の顔。
気づけば小さく、息が乱れていた。
「大丈夫?いつもより酷そうだったよ」
「最近増えてるな。なあ、やっぱり病院行こうぜ。心配だ」
「……うん……」
それでどうにかなるなら、どれだけ……。
竜也は強く目を瞑って、何度も首を横に振る。そんな竜也を佑馬は心配そうに見つめていた。
俺ら呪いの子は、ある力を貰った代償にその呪いを受けたと言う。だがまだ不幸にさせたことは無い。小中とアザがある右目のせいで不気味だと言われ虐められたが特に誰も不幸にはなっていない。だからそう言われてるだけで、実際は何もないのだと……信じたい。
だって折角二人と出会えた。高校に入ってもいじめられそうになった俺を、あの二人が救い上げてくれた。
やっと出逢えた大切な存在。そんな二人から離れたくない。でも、不幸にもしたくない。俺のワガママだ、それでも……どうすれば……。
「あれ?あそこに居るのって……」
下を見下ろしていた佑馬の声に気づき、そちらに顔を向ける。ヒロもつられたように覗き込む。すると怯えた様子で、生徒会長……と言葉を漏らしていた。
「ほんとヒロは怖がりな。なんもして来ねぇよ」
「いや、単純に無表情なのにキツいあの目が怖くて……」
「あー、そりゃどうしようもないな」
竜也もそこへ歩み寄ると、下を見下ろした。
生徒会長一人か。キョロキョロと辺りを気にしながら少し走るように動いている。……ん?なにか……。
「会長……何かから逃げてない?」
「え?」
「……さき帰ってて!」
「えっ竜也は?」
「ちょっと見てくる!」
そう言うと竜也は階段を駆け下りた。一瞬見えた。女生徒に追いかけられていたのだ。しかしあれは、ただの生徒じゃない。恐らく、人間ですらない。
「巻き込まれてる……!」
生徒会は俺とは違うと思う。呪いの子同士はなにか勘づくらしく、仲間同士わかるようになっているのだ。それなのにわからないって言うのは、あのグループがただの一般人であることを示してる!
確認するように窓から覗き込むと、壁に追い詰められていた。くそ。間に合わない……!
辺りを見渡して誰も居ないことを確かめると、ゆっくり呼吸を整えた。そして──飛び降りた。
そのまま着地と同時に女生徒を踏みつける。シエは驚いたように口を開けて竜也を見ていた。
竜也は女生徒の頭を地面に押し付けながら、叫んだ。
「──逃げて!!」
それに圧倒されたようにシエは後退り、走り去った。これでいい。これで……。
「見られたら、まずいでしょ……」
そして女生徒から距離を取るように離れながら、空間が裂けていく中から大鎌をずるりと取り出した。
「こんなの、さ」
やっぱり、そうだ。これは。
立ち上がり顔を上げた女生徒の目は真っ黒だった。
ヒヒヒ、と不気味に笑って自身の頭から流れてきた血を舐めとる。
「あらァ?気付かれちゃってたの。つまんないわねェ?ていうか、女同士の話に首突っ込んじゃダメよォ坊や」
そう言う女の首が気味悪く伸びていく。ろくろ首……妖怪か。
でもなんだ、妖怪なんているのか? これは幻覚……そういう力? だめだ、ヒントが無いせいで何も分からない。
「……でも、分からなくても困らないな」
「ンン?なんのお話?割って入ったかと思いきや今度は置いていくの?ほんと、女の扱いが分からないのねェ」
「おばさんはちょっと、分からないかな」
その言葉に女はぎり、と奥歯を噛み締める。そして鋭く睨んできた。ゆらりとら女が纏う空気が変わった。
「いいわ、この首で絞め殺してあげる!!」
先程とは違い素早く伸びてくる首を避けながら、竜也は距離を取る。
「長いと、切りやすそうでいいね……!」
でも、待て。これって人なのか? 人殺しになるのか? 別に殺したいわけじゃ……でも、躊躇したらやられる。
その隙に鎌を持っていたその手ごと、体を締め上げられた。しまった……!
「あらァ?さっきまでの威勢はどうしたのかしらァ?」
「くっ、早……!」
「そりゃあ、戦うために訓練されたもの」
「訓練、か……」
竜也は鎌を握る手に力を込める。
「嫌な言葉、だな!」
そして鎌を小さくするとその首を切りつけた。
女は叫びながらよろめく形で竜也から離れる。そして悔しそうに竜也を睨んだ。
「この……!」
「首でしか攻撃できないのか?そりゃ大変だね。首なんて大事な血管いっぱいなのに」
鎌を元のサイズに戻して、構え直す。慣れた重さだ。すっかり信頼している。
「殺されなくなかったら」
すると、目の前の女の首がずれて、下にゴトリと落ちた。なんだ?なにもしてないのに勝手に……?
「無事?」
駆け寄ってきたのは生徒会会計、珠喇だ。しかし竜也が持つ大鎌を見て動揺したように声を漏らす。
「え?なに……なんでそんな武器……」
竜也の目が見開かれていく。
──気付かれるな。バレたらその場で。
その言葉がぐるりと頭の中で広がった。
そして大鎌をくるりと持ち替えるとそのまま珠喇のもとへと走り、首を落とそうと大鎌を振った。
珠喇は咄嗟に後ろへと下がる。が、気付けば首から血が吹き出していた。
そのままどさり、と地面に倒れ込む。首からはずっと血が溢れていた。
「……あ、ああ……」
大鎌を落とし、竜也は頭を抱える。
やった。やっちゃった。殺した?殺した。死んでる。これは血が止まらない。俺が、───殺った。
叫ぼうと開けた口を、後ろから押さえられる。
「おい騒ぐなよ!テメェも呪いの子か!?そうだよな、じゃなきゃそんなもん持ってねぇよな!?」
──勘づかれるな。
そして爪でその香偲の首を切り裂く。
香偲は吹き出る血を押さえて後ろへと下がった。
爪だからまだ浅いが、それでも十分な攻撃だ。血が、止まらない。これはまずい。ごふ、と血を吐きながら声を絞り出した。
「落ち着、け……」
そんな香偲を気にすることなく竜也は大鎌を振り上げる。
「──殺さなきゃ」
その竜也の前に順が飛び降りた。そしてその勢いのまま、竜也の鳩尾を思い切り殴る。
ぐはっ、と竜也は息を吐き出して、倒れ込んだ。
「……ま、た……みられ……やらな、きゃ、……」
そして竜也は目を閉じた。
順は息を切らして、その竜也を見下ろす。
「……なんなんだ、コイツは……」
最初のコメントを投稿しよう!