忘れられない女

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忘れられない女

「あ、もしもし。中谷?」 「お~、久しぶり品川。」 「来週、お前時間ある?」 「来週か...水曜なら」 「OK、じゃあ水曜あけといて」 「わかった」 俺は...二年ぶりにこの街に戻ってきた もう戻ってこないと決めたこの街に この街に戻ってきて 約1週間 いるはずのない彼女の影を 探してしまう俺がいた 「中谷、久しぶりだな」 「マジで戻ってこないと思ってたんだぜ」 「なんでまたこっちに?」 品川がせっかく戻ってきたんだから...と 同期に声をかけてくれていた 「ん...俺も戻ってこないと決めてあっちに行ったんだけどさ。なんでかまた、戻らされたんだよ、青木部長に呼ばれてさ...」 「へぇ、青木部長のひと声か...なるほどね」 「なんかあるのか?青木部長...」 「いや...なんかさ、次の役員会で上に上がるらしいぞ」 「そうなんだ」 「知らずに?」 「ああ。」 「ほんとに?」 「ああ。なんで青木部長に呼び戻されたのかすら、わかんないのに...」 田中や岩本たちは なにか含んだような言い方で 「そうだな...」 「そっか...」 と、話が終わった しばらくして品川が隣にきて 「なぁ中谷...お前、まだ独り?」 「ん?ああそうだよ。品川は?そろそろか?恵ちゃんだっけ?」 「うんまあな。今年中には...って考えてる」 「そっか...」 「中谷は?いい人出来たのか?」 「......無理だな...俺は...」 「ん...まだ引き摺ってるのか?」 「まあな...」 言葉を濁して グラスを飲み干した 引き摺ってるのか? 品川は、彼女のことを言っているのだろう コイツだけは俺と彼女のことを知っているから... 彼女の今...を、知っているかもしれない... 「あのさ、品川。...あのさ...り..りか..梨花の...」 「そろそろ次の恋愛しろよ!中谷!」 「ん...」 「恵の友達とか、紹介しようか?」 あきらかに 俺の言葉に被せるように 聞こえていたはずの 彼女の名前をかき消すように 彼女は今、どうしているんだろうか 元気だろうか 向こうに行って、帰るつもりもなかった俺は もう会うこともないと 思っていたが 彼女も、同じように 思っていたのだろうか もう俺のことなど忘れているだろうか 俺は... 向こうにいた2年、結局忘れることなんて 出来なかった 想いは募るばかりだった 会いたい... 梨花... 梨花に 会いたい...
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