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そもそも。
本来世界の問題というものは、その世界を生きる住人達の間で解決するのが筋なのである。
役所から正式な手続きをして、記憶を失った状態でやってきた異世界転生者ならともかく。神様の都合でトラック異世界転生させて、記憶も引き継がせて、チート能力を与えて無双させる――なんて道義に反すること、許していいはずがないのだ。なんせ罪のない人間を神様の都合で殺している上、その人間に度が過ぎた力を与えることで元の世界の問題を強引に解決しにかかっているのだから。過ぎた力は、世界のバランスをも壊す。それこそ桃太郎の世界で、桃太郎が鬼が島に到着するよりも前に異世界出身の魔法少女が舞い降りて鬼を殲滅してしまったら、本来の物語が成り立たなくなってしまうように。何故、世界の秩序を一番に考えなければいけないはずの神様が、そんな単純なことさえ理解していないのだろうか。
よって、その神様の“強引な異世界転生”によって連れて来られた元地球人たちには、役所で書類(ほぼ神様に持たされた、形式上だけのものだが)を渡す折にいくつかこちらで手を加えることにしたのである。
ある者は、全ての元凶が神様であることを吹き込んで、勇者に転生した青年の怒りが“夢の世界を脅かす魔王”ではなく神様へ向くように仕向けた。まさか勇者と魔王がタッグを組んで自分に刃向ってくるとは夢にも思わなかったとある神様は、最終的に泣きながら勇者に土下座して彼を元の世界に帰すことを約束したという。
また、ある者は与えられたチート能力に大きく補正を与えさせてもらった。神様に“おわび”として与えられたチート能力が大した効果を齎さないことをに気づいた転生者は激怒、地道に体を鍛えて仲間と共に神様への反逆を開始。このパターンもやっぱり神様が勇者から逃げ惑う結果になったという。
あるいは、逆に転生者のチート能力のリミッターを外したこともある。相手の名前を呼ぶと、どんな人間も殺せる能力――を持たされた女性は、その力を“相手の存在を想うとどんな人間も殺せる能力”にグレードアップしてしまったがために、顔をあわせた人間や知っている人間をかたっぱしから抹殺してしまい。結果、せっかくの夢と魔法の世界から住人が一人もいなくなってしまい、まともな生活を送ることさえ困難になってしまった。最終的には神様に能力を向けようとしてきた上、世界が破滅する危機に陥ったため、彼女を転生させた女神が彼女に謝罪しながら世界を元通りにする羽目になったとか(ちなみに、この女神が死者を蘇らせる能力を持っていたのもこちらにとっては織り込み済みである)。
「ちょっと、役所おおおお!せっかくよその世界の奴ぶっ殺して異世界転生させたのに、世界が良くなるどころか滅ぶじゃないか!どうしてくれるんだ、ちゃんと仕事しろよコラ!!」
どどどどど、と多数の“神様”達が、非難轟轟で窓口に押し寄せる。俺とクボタはそんな彼等ににっこりと営業スマイルを向けて、こう言ったのだった。
「そんなもん知らねぇです」
神様だからって、いつまでも好き勝手できる思うなよ。
「ああ、神様神様?こちら異世界転生受付窓口ですが、二十四時間働くのは無理なのでいい加減お休みを下さい。もちろんその他諸々の待遇改善も。出来ないなら未来永劫、このモードは解除いたしませんのでそのおつもりで」
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