こちら異世界転生受付窓口ですが、二十四時間働くのは無理なのでいい加減お休みを下さい。

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こちら異世界転生受付窓口ですが、二十四時間働くのは無理なのでいい加減お休みを下さい。

「いい加減休みが欲しい」  事務所にて。ちみちみとサンドイッチを食べながら、目の前の青年・クボタは言った――それはそれだ死んだ目で。まだ二十五歳であるはずなのに、すっかりふけこんでしまっている様子だ。 「まさかここに就職した時は、こんなブラック企業だったなんて思ってなかったんです。一応、お役所ですよね?神様の公的機関なんだよな?こんなコンプライアンス守られてないってゆことっすか?」 「……一年でそれに気づいただけお前はすげえよ」  俺も感心しながら、おにぎりを齧る。本当は昼休憩の時間くらい、外に出てがっつりしたものでも食べたい。それができない理由は単純明快、この事務所の見張りをしていなければいけないからだ。“電話が鳴ったら3コール以内で出ろ、出ない奴はクソ”と罵倒してくる上司がいるため、誰かしらは事務所に詰めておかなければいけないのである。この職場では、営業時間中はひっきりなしにクレームや問い合わせの電話がかかってくるのだ。今も向こうのシマで、同僚女性が泣きそうな顔してぺこぺこと頭を下げている。悲しいかな、電話相手に見えていないとわかっていても、謝罪の時は体が勝手に動いてしまうのだった。  自分達が本当に悪いわけでもないというのに。  仕事をブン投げてくる上司もクソなら、クレームを投げつけてくる“お客様”もクソという、その間で完全に板挟みになっているだけの職員だというのに。 「僕は、学びました」  じーっと目の前の白い電話を睨みながら言うクボタ。頼むからかかってくるなよ、と念じているのが透けている。きっと自分も今ほとんど同じ顔をしているのだろうが。 「“アットホームな職場です”って求人に書いてあるようなところには応募しちゃいけない。あと、求人募集がずーっと掲載されっぱなしなところも警戒しなきゃいけない」 「……それに気づくのはちょっと遅かったな」 「はい、前世で死ぬ前になんで気づけなかったのかなあ」 「だな。俺も今、心の底からそう思ってるところだ……」  はあああ、と二人揃って特大のため息。  そう、自分達はみんな、“異世界転生者”というやつである。ただし、ライトノベルやマンガであるあるの、夢と希望に溢れた異世界転生ではない。まあ、そんなのはこのげっそりと疲れ果てたサラリーマン×2の様子でお察しだろうが。
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