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次の日、何だかふわふわした足取りで最寄駅から通勤路を歩いている時、ポンっと肩を叩かれ振り向くと――。
「おはようございます。七海さん」柔和な笑顔の兵藤がいた。
「ひっ、ひえぇ?!」瞬間的に悲鳴にも似た叫びが響くと、周囲の通行人が数人振り返る。
「驚かせてすみません。私、こういう者です」まだ引きつる顔先に名刺が突き出される。
「貴女の運命の相手 兵藤恭輔……は、はああっ?」
状況が理解出来ず、名刺と兵藤の顔を何度も見返す七海の手を、指の細い大きな手が包む。
「イエスならこの名刺、受け取って下さい」にっこり微笑みながら言う声が耳許を擽る。
突然の理解不可能な事態に、目は見開き顔は強張ったまま『何か言わないと』そう思って唇は動くが言葉にならない。
そのままフリーズしていると、兵藤の後ろから叫び声が響いた。
『あっ、歩の声だ』声の主が分かった瞬間、その主が後ろから兵藤に抱きついた。
「ひ、兵藤課長っ!何してるんですかぁ!僕と言う相手がいながら!なみちゃんも何手握ってんのっ!」
「歩、違う。違うの。いきなり兵藤さんが……」
「なみちゃんにその気があるからそうなるのっ!早く手離してよ。課長も、手ぇ離してよおぉ」
歩の叫び声が何か他の音と重なり、目を見開いたところで『ハッ』と目が覚めた。
枕元の目覚まし時計のアラームが部屋に響き渡っていた――。
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