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『まったく……何て夢見てんだろ』夢見の悪さが体中を倦怠感で満たしているように重く感じながら、七海は会社へ続く歩道を歩いていた。
その時、肩をポンと叩かれた。『はっ』として振り向き「わあっ」と思わず声を上げてしまった。
『え?え?昨日の夢と同じなんだけどっ』そう、そこには昨夜の夢と同じく兵藤が立っていた。これもまた昨夜と同じ笑みを浮かべて。
「あ、あのっ、名刺は要りませんっ」
兵藤は首を傾げて「名刺は昨日お渡ししましたよね。もう一枚差し上げましょうか?」そしてまた微笑む。
七海は両手を前に突き出し「結構です。いただいてるので。運命の人とか、いいです。結構です」慌てて早口で捲し立てた。
「運命の人?何でしょうか?」
「いえ、本当に何でもないので。気にしないで下さい」
なんとかこの場を切り抜けようと、もう必死だ。その後ろから夢の続きが足音を忍ばせているのを私はまだ知らなかった。
「なみちゃん、おはよう!あれ?兵藤課長と何かお話し中?」
『ひえっ?!』昨日の夢を擦るような現実に体がビクンッと震える。
「あ、歩!何でもないの!手とか握ってないし、何も取ったりしないから」
慌てふためいて振り向く私を、爽やかな笑顔の歩が見詰める。
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