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五月――この季節らしい爽やかな風が都心中央部に林立する高層ビル群をすり抜けていく。ビル群の一つ、そのエントランスを入ろうとする女性の髪を少し強い風が吹き乱した。 「わっ、きゃっ!」その女性(ひと)――、音無七海(おとなしななみ)は慌てて髪を押さえた。その後から鈴のような声が鳴る。 「なみちゃん!おはよー、いい風だねぇ。あ、でも髪乱れちゃったね。大丈夫?」そう言いながら伸びてきた掌から逃げるように女性が身を退けた。 「だ、大丈夫だからっ!(あゆむ)は余計なことしないで」 少し震えた声で答えた七海を前に、伸ばした掌のやり場に困りながらスーツ姿の男性は何か口を開こうとしている。 その時、歩と呼ばれた男性の後から落ち着きのある低い声が鼓膜を刺激した。 「神成(かんなり)、おはよう。ん?どうした?」 「わ、わ、わっ!兵藤課長?!お、おはようございますっ」神成歩(かんなりあゆむ)は上擦った声で言うと、慌てて頭を何度も下げた。 「あ、あのっ!昨日提出した企画書、見てもらえましたか?自分ではいい内容だなぁって思うんですけどっ。兵藤課長はどう思うかなって考えてたら何だか寝れなくて、今日はちょっと寝不足で……」声は上擦ったまま顔まで紅潮させて捲し立て続ける。 放っておいたら 永久無限(エンドレス)に続くかと思われた歩のマシンガントークに終止符(ピリオド)を打ったのは兵藤の『頭ポンポン』だった。
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