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「か、神成……分かった。読ませてもらったから。今日の会議でまた話そう。な?」頭に手を置いたまま半笑いを浮かべる兵藤と呆れ顔で見詰める七海の視線が一瞬交差した。 互いにぎこちない笑顔で会釈を交わしたところで歩が再び爆ぜ始めた。 「兵藤課長、よそ見しながら話さないで下さいよっ。あ、今の話大丈夫ですよね?会議でちゃんと時間取って下さいね。約束ですよ?」 「分かった。分かった。ほら、もう行かないと遅刻するぞ」背中を押して子供をあやすように二人肩を並べて七海の前を通り過ぎて行く。 呆れ顔で溜息を吐く七海を振り返り、歩が手を振った。 「あ、なみちゃん!また後でね!」 ついつられて七海も小さく手を振り返した。 『あ、振り返す必要無かった。歩……相変わらず朝から激しかったな』二人の背中を見送りながら七海は『はっ』として腕時計を見た。 「わっ、やばい、遅刻しちゃうじゃない」 風で乱された髪を整えながら、小走りにエントランスに飛び込んだ。 こうしてまた一日が始まる。 音無七海(おとなしななみ)は24歳、この高層ビルの十五階に入っている広告デザイン会社のデザイナー、と言ってもまだ、じゃなく先輩社員のフォローが精一杯の半人前。ならせめて私生活は充実して――といきたいところだが、これも二十四年間、枯野状態。
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