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「え?えっと、はい。め、名刺ですね?!」慌てて鞄の中に仕舞い込んだ名刺入れをガサゴソと捜す。
『あ、あった』見つけると掴んで少し震える手で一枚差し出した。
「失礼しましたっ!わ、私こういう者です」
七海の慌てる様を見て、兵藤は正月に帰省した時のことを思い出した。
『妹夫婦の子供が大事にしていた玩具を捜して玩具箱をひっくり返しては夢中になって捜していたっけ』
そう思い出すと、目の前の七海と重なって思わず笑ってしまった。
「くすっ、ふふっ」
『へ?何でこの人笑ってるの?』意味不明な笑いに困惑する七海に見返され兵藤は我に返った。
「あっと、ごめんなさい。えーと、エビスデザイン 企画部 音無七海……さん」
ほぼ初対面の、しかも男性から名前を呼ばれ七海は赤面して俯いた。
「あ、どうかしました?」兵藤が覗き込むと――。
「あ、あの、いえ何でもないです」
そんな七海から差し出された名刺を見ながら。
「広告関係なら同業者ですね。お取引する機会もあるかもしれないですね。よろしくお願いします」
恭しく言うと長身を折り深々と頭を下げた。
「ところで、音無さんは神成とお付き合いを?」
「えええぇぇ?!」驚いた七海は手にした名刺を危うく落としそうになった。
「ああ、いきなりでごめんなさい。深い意味は無いんですが……」
「こちらこそ取り乱してすみません。神成君とは実家が近所の幼馴染みなだけです」
「そうですか……良かった」
「良かった?何か?」
「いえ、何でも……あ、お帰りのところお引き留めしてすみませんでした」兵藤は再び柔和な笑顔で答えると何度か振り返っては手を上げて去って行った。
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