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はじめに
この記録を残そうと思った理由は、彼女の活躍を世間の人々にも知って貰いたいと考えたからだ。
彼女――今屋敷蜜は十七歳の少女(こういうと彼女は怒るのだが、事実として記録しておかなければならない)でありながら、凶悪な犯罪者と渡り合うためのふてぶてしさと、明晰な頭脳と、鋭い観察と直感から発揮される並外れた洞察力を駆使して、もつれ合った謎を解きほぐすことで数多の事件を解決し、起きるはずだった悲劇を未然に防いだ。
彼女自身が脅威にさらされることも幾度となくあったが、その度に危機を潜り抜けてきた(これに関しては、私が彼女を助けたことも、逆に助けられたこともあった)。
にも関わらず、今屋敷蜜は自らの功績を誰にも語ろうとせず、得られるはずの感謝や名声をあえて避けていると感じることもある。
それについて彼女に尋ねると、くだらないことに時間を割くのは勿体ないというように、ただ興味がないと答えるのであった。
しかし、才気溢れるこの若き友人と行動を共にし、その活躍を最も近い距離で目の当たりにした証人として、私以上に記録者に適した者はいないはずだし、類稀なる才色を放つこの人物の輝かしい功績を時の流れにただ埋もれさせてしまうのは余りにも惜しい。
本人は迷惑がるかもしれないが、才能ある者が受け入れなければならない宿命として、また、もしこの記録がきっかけとなって今屋敷蜜の名が世に広まることがあれば、彼女の趣味である犯罪捜査の一助となるかもしれない。
さて、記録を書き始めるにあたって――必要かどうかはわからないが――彼女の二つ名を決めたいと思う。
少女探偵が真っ先に思い浮かんだもので、事実を的確に表してもいるが、聞くまでもなく彼女は却下する。
次は諮問探偵ではどうかと尋ねたが、その呼び名は世界で唯一人のものだと彼女は言っていた。
できるだけ本人の意向に沿う形で彼女を表する二つ名は何か考えた。
彼女は創作が趣味で、事件を手掛けている間でもよく色がついた刷毛を持ってカンバスの前に立っていた。創作のためにわざわざ着替えることもしないから衣服に染料がついていることも度々だ。
私が彼女と出会い、解決した最初の事件は、様々な色彩で鮮やかに彩られた舞台で決着を見た。
そこで、才色兼備の色彩探偵、今屋敷蜜の、初登場となるロンドンで発見された焼死体にまつわる事件をこれから語ろうと思う。
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