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「ねえ、藍ちゃんは? 今、彼氏はいるの?」
「あ、うん、まぁ……いるようないないような、ってところかな」
「なあに、それ。友達以上恋人未満、ってこと?」
志乃ちゃんはさらに詳細を聞き出そうとする。話したい気持ちもあるけれども、話したところでどうにもならないこともわかってる。だから曖昧な笑顔でその場をごまかし、他の話題を振った。
「志乃ちゃんの彼氏さん、どんな人?」
「すごく優しい。でも嫉妬深いの」
「そうなの?」
「うん、だから今日もね、従妹と会うって言ってもなかなか信じてもらえなくて大変だった」
志乃ちゃんの左手がさらり、と髪をかきあげる。そのまま横を向き、ちょうど通りすがった店員にグラスワインのお代わりを二人分頼む。
そのときに見えてしまった……耳の下に、薄赤い痣があった。
「藍ちゃん、一緒に写真撮ってもらってもいい? 証拠として彼に送らないといけないんだ」
「あ、うん! もちろん!」
キスマークのことには触れず、志乃ちゃんの隣の席に移動する。志乃ちゃんがスマートホンのカメラを立ち上げ、自撮りモードにする。
パシャ、と音がして横長の画面の中に、ピースサインをする私と志乃ちゃんが、満面笑顔で映る。
「ちょっと画像送らせてね」
志乃ちゃんはスマートホンを操作して、撮ったばかりの画像を彼氏さんに送信した。
「よし、これで安心、っと」
「彼氏さん、結構束縛系なの?」
「うーん、そうだねぇ。でも、そのほうが愛されてるような気持ちになるから、わたしにはこのくらいの束縛がちょうどいいかな」
志乃ちゃんはスマートホンをしまうと、ちょうど運ばれてきたグラスワインのお代わりを一口飲んだ。
不思議だな、と思う。キスマークの独占欲に、夜、出かけることへの束縛。それが「愛されている」ことを実感させるのか。
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