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「藍ちゃん、そろそろ上がらない? のぼせそう」
志乃ちゃんに声をかけられて、「はーい」と大きく返事をして露天風呂から上がる。
脱衣所で体にバスタオルを巻きつけ、大きな扇風機の前のベンチに二人並んで腰掛けて、汗が引くのを待つ。
「……彼氏にね、付けてもらったの」
志乃ちゃんは唐突に、そう言った。私は何を言われているのかわからなくて「何を?」ととぼけた声で聞いてしまった。
「さっき藍ちゃんが示したの。キスマークなんだ」
「キスマーク?」
志乃ちゃんはバスタオルの胸元をつ、っと指差した。
キスマークって、なんで胸元に付くの? と考えたときに、何故だか恥ずかしくなって下を向いた私に、志乃ちゃんは続けて言った。
彼氏って言えないかもだけどね。その人、結婚してるから。
デートのとき、いつもキスマークをねだるの。一緒にいられないときの方が多いからさ、キスマークに触れると安心するんだよね。愛されてるんだな、って実感するの。
バカみたいでしょ? すぐに消えちゃうのよ、キスマークって。なのに付けてもらうと、わたしは彼に属してるんだ……って嬉しくなるの。だからいつも、ねだっちゃう。
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