20人が本棚に入れています
本棚に追加
当時の私にはその意味がよくわからず、ただ、うんうんと聞いていた。
結婚している人と付き合っている、デートしているということが、してはいけないことなんだということはわかっていたけれど。
「志乃ちゃんはその人のことが大好きなんだね」
志乃ちゃんは少し困ったような、でも嬉しそうな顔で答えた。
そうなの。
好きになったときは結婚してるって知らなくてさ。すごくすごく好きになってから結婚してるって知って……ずるいよね。
なんて返事したらいいんだろう。私はわからないまま、下を向いていた。
「ねぇ、藍ちゃんは好きな人いるの?」
その質問に顔を上げると、志乃ちゃんはにっこりと微笑んだ。それになんと返事をしたのか……曖昧に、誤魔化したような記憶がある。
その後、志乃ちゃんは親戚一同の旅行に参加しなくなった。
私は高校を卒業し、大学とサークル活動が忙しくなって、親戚旅行に参加することはなくなった。
時々、母伝えで志乃ちゃんが転職したとか、彼氏ができたらしい、などの近況は耳に入ってきたけれども、それだけで。
個人的に連絡を取り合うこともなかったのに、あの旅行から五年経って、突然志乃ちゃんから連絡が入った。
最初のコメントを投稿しよう!