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そんな私の表情から、何を言いたいのか読み取ったのだろう。志乃ちゃんは詳細を話し出した。
結婚相手は同じ会社の人で付き合って三年目。転職した先の会社で知り合った人だ、という。
「この先、親戚の集まりとかで顔をあわせることもあると思うんだけど、あの日藍ちゃんに話したこと、絶対誰にも言わないでくれる? あの彼のことを知ってるの、藍ちゃんだけだから」
「そうなの?」
「そうだよ。不倫なんて誰にも話せないもの」
「その人とはもう終わってるんだよね?」
志乃ちゃんは一瞬、少し寂しそうな顔をした。
うん、終わってる。その人と別れたから転職したの。同じ会社の人だったから、別れたらもう、一緒に働けなくてね。
結婚する人には過去の恋愛とか一切話してないから、他から耳に入らないようにしておきたいの。念のためにもう一度言うけれども、誰にも言わないって約束して。お願い。
もちろん、と私は返事をした。
不倫の恋。人には言えない恋。なんでそんなものにハマってしまうんだ、なんて糾弾するのは簡単だ。
でも、私はあの日の志乃ちゃんの、切なそうな顔を知っているから。志乃ちゃんがその男の人に本気だったこと、その恋に真剣だったことはわかってるつもりだった。
「ありがとう……実はずっと気がかりでさ。藍ちゃんは面白半分に言いふらしたりしない子だってわかってたけど、やっぱり何があるかわからないから」
志乃ちゃんは安心したように、ほっと息をついた。そして「今日はわたしの奢りだから、なんでも好きなものを食べて」とメニューを差し出してきた。
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