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まさかの告白
「頼む!何も聞かずに俺との婚約を解消してくれ!」
それは、ある晴れた日の昼下がりの事。婚約者でもあるこの国の第2王子アヴィレックス様に呼び出されやって来た薔薇が見事に咲き誇る園庭のガゼボに待っていたのは、土下座したその第2王子の姿だった。
「はぁ……婚約解消ですか……」
簡単に言ってくれるが私達の婚約は王命でもある。例え私が了承してもそんなすんなりと認められるとも思えないが……。なんなんだ、まったく。浮気でもしたか?そういえば庶民の間では男爵令嬢と恋に落ちた王子が真実の愛の為に婚約者を断罪する物語が流行っているらしいが……そういえば学園で王子にまとわりついてる男爵令嬢がいたな。と思い出した。名前は忘れたけど。
「とりあえず落ち着いてください。何も聞かずにと言われましても、理由もわからずに出来る事ではありませんわ」
何よりも第2王子をずっと土下座させているなんて外聞が悪すぎるんだよ。すぐそこに執事がいるやんけ!これでも私は公爵令嬢なのだ。外聞大事!
「す、すまない。ヴィオラ。……そうだな、そんなに簡単にすむ話ではないな……」
「ちゃんとお話は聞きますわ。それなりの理由がおありなんでしょう?」
アヴィレックス殿下をイスに座らせると、さっと執事がティーカップにお茶を入れだした。なんてことだ、さっきまで離れた場所にいたのに気配も感じさせずにこんなに側にいたなんて……こいつ、できる!と、私が羨望の眼差しを向けたが無表情だったので感情は読み取れなかったがかなりの達人とみた。
無表情の執事がぺこりと頭を下げてまた離れた場所に待機すると、第2王子はお茶をひと口飲んでから「実は……」と口を開いたのだった。
***
なんてことだろう。第2王子の口から語られた言葉を聞いて私は震え上がった。
「実は、好きな人がいるんだ」
それはなんとなく想定内だった。婚約者に婚約やめようって言うときはだいたいがそれだし。巷で流行りの小説だとすぐ冤罪で断罪されるがこの人はそれなりに良識があったようでホッとする。無実の罪で国外追放なんてごめんだ。
「そうだったのですね。私たちの婚約は幼い時に決められた王命ですし、私たちに恋愛感情はありませんから誰かに心惹かれてもしたかない事ですわ」
王子も年頃だしね。ちなみに私と王子は同い年だ。今年で17歳……お年頃ですわ。
「その方は、どんな方なのですか?」
私が嫌悪の顔を見せずに促したからか、アヴィレックス殿下は少しホッした様子を見せる。まぁ無理も無いだろう。いくら親が決めた相手とはいえ結婚すると決められた相手の前で浮気したことを自白するんですしね。
「……すごく、良い子なんだ。優しくて平等で、少しドジな所があるけれど、笑顔が可愛いんだ」
あらまぁ、まるで物語の定番のようなヒロイン像ですわ。あれですね、爵位とか気にせず天真爛漫で自分を王子ではなくひとりの人間として見てくれるんだ!とか言い出すのでしょうか?これで男爵令嬢ならますます流行りの小説みたいですわ。
「この間も乗馬の授業の後に更衣室で着替えていたら、汗を拭ってくれて……しかもその手拭いは手作りらしくてなんと花の刺繍まで施してあったんだ!その花が俺の好きな花だったからつい話かけてしまってーーーー」
ん?
「あの、乗馬の授業の後の更衣室って……女生徒は立ち入り禁止では?」
学園では男子と女子の授業は座学以外は完全に離されています。ましてや異性の更衣室に忍び込むなんて淑女としてもってのほかです。異性が肌を露出して着替えを行うその場所は例え婚約者だって入れない禁断の場所なのですから。
「え?あぁ……それは問題無い。その相手と言うのは……その、男性なのだ」
ーーーーは?
まさかの婚約者の浮気相手が、男性だったなんて……。私はショックで言葉を失った。
だって、だって……そんなの大好物なんですけど?!
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