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それはまさしく稲妻のような恋だった。
ビリビリとくる。脳天から足元まで駆け抜ける雷光が地面へと散っていくまで瀬尾はずっと彼女のことを見続けていた。
「君に恋をした」
喫茶店の客たちを押しのけて、奥の席でカフェラテを片手に友達と話をしていた女の子は、突然そんな言葉を紡がれて、まばたきをしばしばしながらも、キラキラと瞳を輝かせる瀬尾は彼女の手をぎゅっと握りしめてまた言う。
「君が好きだ。僕と付き合って欲しい」
これが一カ月前の出来事。瀬尾学は一言でいえばろくでなしである。彼の持って生まれた容姿はこれまでたくさんの人の価値観を狂わせてきた。髪の色は明るいブロンドヘアで瞳は澄んだ蒼の宝石に近い、これらはスイス系の祖母から遺伝したもので片手で覆えそうなくらい小さな顔や計算しつくされた芸術的な目鼻の整い方はもはや冒涜的ですらある。
そんな彼が最初に付き合ったのは小学校の担任だった。
美しい蕾のままでも他人を狂わせるには十分すぎるほどの魅力を漂わせていた彼に、清廉潔白であったその教師は見事引き寄せられ、関係をもってしまった。
大学に入るまで彼と関係をもった人間は数知れない。その誰もが精神に歪みをきたすほどのダメージを負って、そして泣く泣く瀬尾から離れていくか、家族や友人が無理やりにでも引きはがすか。それとも瀬尾を道連れにして心中をはかるか。
そういった事件が積み重なった結果、瀬尾が大学生になる頃には、どれだけの美貌を持っていようとも彼に容易に近付くような輩はまず現れることはなかったのである。
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