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スマートフォンをパーカーのポケットに仕舞い、一先ず家の中に入る。
「ただいまです」
「おかえり」
自分の眼鏡を拭きながら、穏やかな笑みを向けてソファから私を振り返った。私はレジ袋から冷蔵庫に食材を詰め込んでいく。そして淡々と話した。
「今日は何も依頼は無かったですよね?」
「無いよ」
「今から人と会うので少し出て来ます」
「……誰と会うの」
「貴方が1番殺したい人です」
パキンと音がして、振り返れば隼人さんは片手で自身の眼鏡を握り潰していた。血の滴る掌を見詰めてから、口角だけを上げて私の方を見遣る。
「予備の眼鏡はあるから平気だよ」
どうやら私が眼鏡の心配をしていると思ったらしい。別にそこの心配は微塵もしていないのだけれど、久々に彼のその顔を見た気がした。そして目を細めて低く言葉を放った。
「行くな」
「いえ、行きます」
「殺されに行く気か」
語気を強めて静かに怒りを湛える彼に少しだけ緊張しながらも、極めて冷静に答えた。
「彼は私を殺す事は出来ません。私も彼を殺せません。
掟上、そうなっているので」
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